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第207話
ペリグレット軍が出陣して一時間が経った頃、
陽は完全に昇り、ジリジリと刺すような光が降り注ぎ始めた。
「シエル、もう中に入ろう?暑さにやられるよ」
「もうちょっと……」
「駄目。ほら、行くよ」
エルヴィドは立ち上がろうとしないシエルを、横抱きにして城の中へ入った。
ずっと暑さを我慢していたのか、シエルの体は火照っていて、体力の限界だというように、エルヴィドの腕の中で眠りについた。
シエルの真っ白な肌は、強い光を浴びて紅く色付き、後々痛みに変わって泣いてしまうのではないかと、エルヴィドは心配になった。
軽く熱を出していたため、使用人に朝食を消化の良いものに変えるよう命じ、エルヴィドは前にも使った、中庭に面した大部屋のベッドにシエルを横たわらせた。
「アル……」
眠りながらも悩ましげな表情でアルベールの名を口にするシエルに、エルヴィドは無駄とわかっていても嫉妬してしまう。
エルヴィドがシエルの小さな手に指を近づけると、シエルは赤ちゃんのようにエルヴィドの指をギュッと握り返した。
その可愛さに、顔が綻ぶ。
「俺も馬鹿だな…」
本気の愛はいつも手の届かないところにある。
街角の詩人が読んでいそうな、そんな台詞もあながち嘘ではないなと、エルヴィドは悲観的に笑いながら、シエルの熱い額に冷えたハンカチを置いた。
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