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第234話

「おい。行くぞ」 アルベールがそう声をかけても、バルトは聞こえていないようだった。 そっとガラスケースに近づき、女に問う。 「貴方達は、ここで何を?」 バルトが優しい声色で問い掛けるが、女は唇を震わせるだけで、何も答えようとはしなかった。 「何も話さないように躾けられているんだろ。そいつらと話したいなら、"Yes""No"で答えられるような質問にしてやれ」 「アルベール様…」 ここには多数の女奴隷が収容されている。 おそらくバルトの姉もここにいたはずだと察したアルベールは、バルトがここで立ち止まってしまうのは止むを得ないと判断し、フロアの出口にもたれ掛かり、バルトを待つことにした。 「貴方達はずっとこうして、ここに入れられているんですか?」 バルトが質問の仕方を変えると、女は微かに首を縦に動かした。 その後もバルトはいくつか質問していたが、五分経った頃、流石に悠長にしている暇はないと、アルベールが声をかけた。 「ありがとうございます。この戦いに決着がついたら、必ず貴方達も助けます」 去り際にバルトがそう言うと、女達は全く光を宿さなかった瞳から涙を流した。

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