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その③現実を受け止めさせましょう
もしかして、ここはヤのつく家業のお家なんじゃ。そう信之助が思うのも無理はない。ででーんと大きな日本の屋敷に、表札が○○組とか書いてあったら、それはもう決定だろう。ヤのつく家業だと言うことは。
逃げ出そうと思った。もう日給8万は諦めて、逃げ出そうと。ダッシュして逃げる体勢になったけど、美形に腕をガシリと握られてしまい逃げれない。
「ポチ?まだハウスを教えてないのに、何逃げようとしてるんですか?」
「いや、」
「それとも?いろいろ教えるよりも先に、お仕置きされたいんですかね」
“お仕置き”は避けたい。美形のこの笑顔は、絶対にえげつないことをされるし、させられる。35年生きている、信之助の本能がそう告げていた。逃げれないなら、業に従え。
「大人しくなったことだし、そろそろ行きましょうか」
「………あい」
握られたままの腕を引かれ、屋敷の門を潜る。すると、ドラマや映画、漫画だけの設定だと信じていた光景が目の前に広がった。
いろんな姿の男達が(見た目怖いけど、よくよく見たら皆イケメンだった)、美形に対して頭を下げている。
その中から1人、インテリ系のイケメンが出てきた。眼鏡とスーツ姿がよくお似合いで、美形とはまた違った感じの男だ。
「組長、お帰りなさいませ」
「あぁ」
「ところで、その後ろのお客人は?」
「日給8万で買った、ポチだ」
組長と呼ばれた美形が、少しドヤ顔をしてインテリ系イケメンに言った。いや、何ドヤ顔してるの?と信之助は思うが、インテリ系イケメンが何も言うなと目線で訴えてきたから黙ることにした。
「ポチ、ですか。他に呼び名はないんですかね」
「ポチはポチだ」
組長の美形は、信之助のことをポチとしか言わない。諦めたインテリ系イケメンは、信之助の方に視線を合わせた。
「……………田中信之助です」
何となく、名前を教えろという視線を感じたからボソリと自分で名前を言った。
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