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その⑦モコモコの物を用意しましょう
部屋着に着替え終わった佐久良に手を引かれ、信之助が連れてこられたのは屋敷の中の一室だった。ガラリとためらいもなく佐久良は障子を開け、部屋の中を見て信之助は驚いた。
その部屋の中には、信之助が自分の部屋に置いていたものがすべてあったからだ。お気に入りの漫画とか、馴染みのある小さなちゃぶ台。その他いろいろと置いてあったが、1番喜んだのはモコモコグッズだった。
モコモコグッズとは、その名の通りモコモコしたグッズのこと。人形だったり、クッションだったり。いろんなモコモコグッズを集めては、触って癒されていた。
それが全部ある。しかも、見たことないものが増えている。
「これ、」
「ポチの部屋から持ってこさせました。今日から、ポチの家はここですから」
「しかも、モコモコグッズが増えてる」
「モコモコしたものがいっぱいあったので、勝手に用意したんですけどまずかったですか?」
「んにゃ、スッゲー嬉しいよ」
信之助から、自然と笑みがこぼれた。ただのおっさんのために、佐久良はここまでしてくれた。それが信之助にはくすぐったく感じて。
だからか、信之助からこぼれたのだ。警戒心のない笑みが。
佐久良も、信之助の笑みが見れて嬉しかったのか。本当に嬉しそうに笑った。
「喜んでくれて本当によかった。特に、そのモコモコクッションはおすすめなんです」
「マジか。ふぉ、こ、これはたまらん」
佐久良におすすめと紹介されたクッションを抱く。それはもう、触ったことのないモコモコ感で。そのクッションに顔全体を埋めて、そのモコモコ勘を感じた。
「喜んでももらえたようですし、そろそろ俺は部屋に帰ります」
「部屋に帰るって、一緒に寝ないの?そう言われるかと思ってたのに」
「一緒には寝ないですよ。仕事も残ってますし。それに、」
信之助に近づいた佐久良が、クッションから少し顔をあげている信之助の頬に手を添えた。そして信之助の頭のてっぺんに、そっとキスを1つ落とした。
「慣れない場所とか、疲れた時とか。そんな時は、1人で好きなものに囲まれて過ごすのが1番ですから。だから、今日は諦めます」
こんなかっこいい言葉を言い残して、佐久良は部屋を出た。そして、そんなかっこいい言葉を言われた信之助は。
「……………………はずかしいやつ」
耳まで真っ赤にして、さっきよりもクッションを顔に押し付けていた。
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