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閑話
【もしも、この話にオメガバースが設定に組み込まれていたら】
ちなみに、佐久良がαで信之助がΩです。
出会い方も普通に変わってます。
「はぁ、はぁ、」
信之助は、ヒートで震える身体を自分で抱き締めて路地裏でうずくまっていた。時々、信之助のフェロモンに当てられたアルファらしき人物が顔を覗かせたがすぐに視線をそらした。
それもそのはず。信之助の姿は、誰かに襲われたような感じだったのだ。服は無造作に破られて、身体には傷をつけられた痕が。そんな姿をした信之助にかかろうとする物好きはいなくて。
「くそ、くそっ」
クビになった会社の同僚に、ヒートを促す薬を無理矢理飲まされた。オメガである信之助を嫌っていた同僚で、ヒートが来て苦しむ姿を見て笑っていた。そしてそんな信之助を、人がいっぱいいる街の中に放ったのだ。
信之助がこの路地裏に来るまで、何度も襲われかけた。襲ってきた人が皆アルファで、抱かれたら楽になると分かっていたけど逃げた。
「なんで、なんでこんなっ」
悔しくて涙がこぼれだした。ボロボロと信之助の瞳からこぼれる涙は止まることを知らず、何度拭ってもこぼれ落ちるばかり。終いには、空から雨が降ってきて信之助の身体を濡らした。
でも、この雨が信之助にとって救いだった。雨が、信之助のフェロモンの匂いをかき消してくれて。路地裏に顔を覗かせる人はいなくなった。
これでもう大丈夫。そう何度も自分に言い聞かせて、1人身体を震わせていたときだった。信之助がいる路地裏に、傘をさした男がやって来た。
ピシッとスーツを着て、身体を震わせている信之助にそっと近づく。
「1人で、そんなに身体を震わせて。どうしたんですか?」
「あ、」
声をかけられて、信之助はやっと男の存在に気づいた。逃げないとと、ヒートでぼんやりとする頭で思ったが動けなかった。
イイニオイガスル。クルイソウナ、イイニオイガ。
「でも、危ないですよ。ヒート中のオメガが、こんな街中にいたら」
“俺みたいなアルファに、食べられちゃいますよ”
「って、噛みそうな気がします。もちろん、ポチのうなじを」
「俺もそんな気がしてきた」
「でも、発情したポチは魅力的でしょうね」
「えー。おっさんの発情期は、絶対気持ちわりぃよ」
「そんなことないです。だったら、媚薬でも飲んで発情してみますか?」
「あー、そう言えば今日は藤四郎の部屋の片付けをしてやらねぇとな!」
「あ、逃げられました」
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