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その⑪そとに出してあげましょう
「頼むっ!俺を、外に出してくれっ」
それは、信之助の切実な願いだった。
事の発端は、信之助が秋島組の屋敷に来てから一歩も外に出ていないことにある。佐久良がどうしてもといって出したがらなかった。
信之助も、何度か外に出ようとしたが自分の格好を見て諦めた。ズボンをはいていない状態で、外に出れるわけがなかった。
だから、こうして我慢の限界を迎えたある日の朝。佐久良に頭を下げて頼んでいるのだ。
外に出たい+貯まった給料で買い物をしたい。
キラキラうるうるした瞳で佐久良を見つめて頼み込んだが、首を縦に振る気配はない。
「ポチが外に出たら、拐われてしまいます。可愛いから」
「いや、おっさんだから可愛くねーよ」
「ポチは可愛いんです。だから、」
ダメです。
信之助は、佐久良がそう言うと思っていた。だから、「それはないぜ」って叫ぶ準備をしていたのに。
「俺と一緒だったらいいですよ」
「マジでっ!」
「ただし、もしものことを考えてGPSがついた首輪をしてもらいますから」
そう言って佐久良が差し出したのは、赤色のチョーカーだった。チョーカーかとホッとしてそれを受け取ったが、よく見ればチョーカーについている飾りにポチと書かれていて。
「さ。これをつけてください、ポチ」
笑顔が怖かった。でも、信之助が外に出るにはそれを受け入れるしか道は残されていなかった。
「そう言えば、この格好のままじゃないよな」
「もちろんです。こんな時のために、ポチに似合う服を用意してますから」
佐久良が用意するものだから、もしかしたら変な服かもと思っていた。だが、用意されていた服は普通に男物で。しかも、信之助のサイズにピッタリでしかもお似合いだった。そして、首輪代わりの赤のチョーカーにも似合っていた。
「ポチ、お似合いですよ」
「いやー。こういう服来たことないから、おっさん照れるわ」
「さて、着替えたことですしそろそろ行きますか」
「おう!」
「じゃあ、はぐれないように手も繋いで行きましょうね」
本当は頷きたくなかったが。
「…………………はい」
おっさんに決定権はなかった。
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