15 / 85
その⑬真剣勝負をしましょう
1回で、取りにくい位置にあった人形を取ってしまった佐久良。それがどうしても気にくわなくて、信之助はどんどん金を入れてあれを取れこれを取れと無理難題を押し付けた。だが、そのすべてに応えるのが佐久良だ。
全部取った。しかも、1回で。
「お前、UFOキャッチャー得意だろ」
「いえ。今日初めてやりましたが、簡単なゲームですねこれは」
「簡単じゃねーよ!UFOキャッチャーは、下手な奴からすれば魔のゲームだ」
信之助は語った。自分のUFOキャッチャー体験談を。佐久良は最初黙って聞いていたが、信之助が最高で1万UFOキャッチャーに金を使ったと話すと、お腹を抱えて笑っていた。
「いち、1万ですか。ふはっ」
「……………………笑ったな」
沸々と、信之助から怒りのオーラがあふれでた。そして、強く佐久良の腕を掴むとズカズカとゲームセンターの中を歩く。
歩いて、信之助が佐久良を連れてやって来たのは、カーレースをやるゲームの場所。ちょうど2人分の席が空いていた。
「これで勝負をしよう。何、簡単なゲームだ。ただ車を運転して、レースに勝てばいい」
やる気満々と言うように、信之助はドカリと椅子に座った。それに倣って佐久良も座る。座った佐久良が、財布から小銭を出そうとしたがいつの間にか信之助が入れていた。
「車は好きなやつ選んで。決まったら、勝負開始だ」
慣れた手つきで、信之助が車を選ぶ。よく分からない佐久良は適当に車を選んだ。
どうせ、何だかんだ言ってこのゲームは自分が勝つんだろうなとちょっとだけ思っていた。UFOキャッチャーもあんな上手く出来たんだから、これも出来ると。
そう思っていたのに。
結果的に、信之助が勝った。圧勝的な勝利だった。
「ふんっ。どうだ、俺の実力」
「…………………ぽち」
「何だ?」
「もう1回やりましょう。俺が負けるなんて、しかもポチに」
「しかもってなんだ、しかもって!まぁ、次も俺が勝つけどな」
「いえ、俺が勝ちます」
それから10回勝負したが、5勝5敗と引き分けに終わった。
「楽しかったか?」
ゲームセンターからの帰り、歩きながら信之助は聞いた。今日は自分のわがままに付き合ってくれていたのだ。少しでも楽しいと感じてくれていたら嬉しい。
「―――――――楽しかったです。とても」
本当に楽しかったと言うような笑みを浮かべてくれるから、信之助も笑った。
ともだちにシェアしよう!