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閑話

もしも、佐久良と信之助の年齢が逆だったら。 【23歳、青年の正しい飼い方(仮)】 「……………は?」 「だからね、君はクビ」 田中信之助23歳。ただいま会社をクビになりました。理由はただ1つ。先輩に、会社の存続を揺るがす失敗を擦り付けられたからだ。違いますと言う暇もなく、速攻で信之助はクビになった。 「ったく、全部俺に押し付けんじゃねーよ」 会社からの帰り、ぶつぶつと文句を言っていた時だ。誰かとぶつかった。いつもの信之助だったら、波風をたてぬよう低姿勢で謝って去るのだが。今日はそうも言ってられない。 少し涙目になった瞳をギッとつり上げて、ぶつかった人の顔を睨んだ。 でも信之助は、すぐにその場から逃げようとした。 信之助がぶつかったのは、自分より身長が高く体格もよく、顎に髭を蓄えて煙草を口に咥えている男。そしてスーツを着ているが、中のYシャツは柄物。 これは、逃げるが勝ち。そう確信したから、スッと後ろを振り向いて、スッと走り出そうとした時だ。 「おい、待て。お前、人にぶつかっといて謝りもしねーのか」 ドスのきいた声が聞こえ、信之助は立ち止まるしかなかった。ヤバイ、殺される。そう思ったらぶつかった男の方なんて向けなくて。 早く謝らないと。でも、顔はみたくな。信之助がそんな葛藤をしていた時だ。 「まぁ、俺もすまなかったな」 男はそう言って、信之助の頭をポンポンと軽く叩いた。そんなことをされたら自分も謝らないと。そう思い、勇気を振り絞って後ろを振り向いたが男の姿はもう見えなかった。 「……………………もっかい会いたい」 会って、次こそは謝りたい。でも、もう会えないだろうなと信之助は諦めかけていた。 でも、街中で偶々見つけた住み込みのバイトのチラシ。チラシには日給8万円と書かれてあって。お金に目が眩んだ信之助は、チラシをちゃんと読まずかかれてある電話番号にかけた。 『至急求む! 住み込みで、家事等のアルバイトしてみませんか?日給8万円(ただし、気に入られた場合のみ。基本は8千円です) 希望者の方はこの電話番号まで! 080ー××××ー××××』 そのチラシの下の方に小さく「働く場所は、ヤクザの屋敷になります」と書いてあったのに、信之助は気づかず。 そして2日後。 「俺は、秋島組の組長の佐久良だ。また会ったな」 「佐久良のイメージ、違いすぎじゃない?」 「そうですか?」 「もうちょっとさ、インテリ系の35歳になるかと思ってた」 「いえ、俺が目指すのはダンディな大人ですから。髭と煙草が似合ってるような、そんなダンディな大人になりますよ」 「でもその顔に、髭はちょっとな」 「大丈夫です。俺の家系、30歳過ぎるとダンディな大人になりますか」 「信じらんねー」

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