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その⑰気づいてあげましょう
佐久良が信之助のそばにいない日が2週間以上続いた。その間、男2人は信之助に近づこうとはしなかったが、いつもいつもネチネチと視線を送り続けていた。
そのせいで、日に日に溜まる信之助のストレス。ストレスが溜まったうえ、勝手に部屋に入られている形跡も見つけてしまった。秋島組の皆は、勝手に信之助の部屋に入ったりはしない。もし入ったりすれば、佐久良の激が飛ぶからだ。
「あぁー、つら」
ストレスが溜まっているせいか、最近は布団に横になっても眠れない。今日も信之助は、電気を消して布団に横になるが、パチリと目を開けたままだった。
そろそろ眠らないとヤバイと分かっていても、どんなことをやっても眠れない。
このことを佐久良や藤四郎に何度も言おうとしたが、ただでさえ男2人のことでいろいろとやってもらっているのだ。これ以上大変なことをさせたくない。
それに、年上のプライドで年下に弱音を吐くなど出来なかった。
自分が我慢すれば大丈夫。あともう少ししたら男達も帰ると、藤四郎達が話しているのを聞いた。佐久良もメールで、もう少しの辛抱ですと言っている。
あともう少し、あともう少し。何度も何度もそう思っていた。
「ポチ」
眠れない信之助の耳に、佐久良が自分を呼ぶ声が聞こえた。信之助が起き上がるのと、佐久良が部屋の障子を開けたのが同時で。
「あ、」
「眠れなかったんですか、ポチ。……いや。今日も眠れなかったんですか?」
佐久良の言葉に、信之助は俯いた。
「すみません。俺が早く解決しないせいで、」
「お前のせいじゃねーよ。気にすんな。それに、俺は大丈夫だから。お前より長く生きてるおっさんだぞ。お前が心配することなんて、なにひとつ」
「ないわけないでしょう」
佐久良の声が、少し泣いているように聞こえたのは信之助の気のせいではないだろう。さっきは聞こえなかった、鼻をすする音が何度も聞こえるのだから。
「…………ごめん、佐久良」
「いえ、別に、」
「でも、俺は本当に大丈夫だから。お前がさ、いろいろと大変な立場にいるって分かってるし。ヤクザの組長が、おっさんを囲ってるのもいろいろと立場的にヤバイんだろうなって分かってるし」
「ぽち、」
「でもさ、俺的には日給8万円を手放すわけにはいかねぇから。それに、俺がいなくなったらお前らいろいろと生活できねーだろ?食事とか、部屋の掃除とか」
「………………」
「だから、早くあの男達を何とかしてくれよ。な。佐久良」
「―――――――分かりました」
それは、信之助の本心だった。でも、35歳おっさんの小さなプライドでもあった。
年下に弱音なんて吐けない、おっさんの小さなプライドだったのだ。
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