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その⑱そばにいてあげましょう

「会長にお伝えください。俺はどんなことをされても、あなたの下に戻る気はないと」 佐久良は静かに怒っていた。その怒りを真っ正面から受けている男2人は、ガタガタと身体を震わせていた。 自分達は、とんでもないものを怒らせてしまった。でも後悔してももう遅い。 「俺の大切な人を傷つける組員がいるところなんかに、誰が戻るか!!!」 佐久良の激昂は、屋敷中に響き渡った。だが、それを咎めるものは誰もいない。それもそのはず。 信之助が、熱にうなされているうえに身体に傷をおっているのだから。 ストレスが溜まって体調を崩した信之助。それに追い討ちをかけるように、男達が佐久良達がいない隙を狙って殴る蹴るの行為をした。 その現場を偶然見た組員によって、佐久良の耳に入った。それで佐久良は、男達に激昂したのだ。 分かっていた、分かっていたはずなのに。男達がどう言った理由でここにきているのかも、それには信之助が邪魔だと言うことも。組長の立場である佐久良が、組員でもない男をそばにおくのはおかしいと進言された。 だから、信之助のそばから離れて出来るだけ一緒にいることを避けた。そうすれば、男達が着替えを加えないと思っていた。 それなのに、これは起こった。 「組長。あとは私がしますので、信之助さんのそばにいてあげてください」 まだまだ足りないと、男達に突っかかろうとしていた佐久良を藤四郎がとめた。藤四郎がそう言うのだからと、息を整えて怒りを静める。 「………………あとは頼んだ藤四郎」 「あなた様の仰せのままに」 佐久良はその場をあとにすると、小走りで信之助の部屋に向かった。部屋について静かに障子を開ける。部屋の中には、おでこに冷えピタを貼って包帯をどこそこに巻いて眠る信之助がいた。 「ぽち、」 信之助に近づいて、佐久良は心の中で何度も謝った。こんな目に合わせてすみませんと。俯いて、信之助の顔を見ないように何度も謝った。すると、膝の上でギュッと爪が食い込むぐらい拳を握っていた佐久良の手を信之助が握った。 「ぽち」 「だい、じょうぶ。ねつもすぐさがる、し。だからさ、しんぱい、すんなって、ば」 「ぽち」 「なくなよ、さくら。おまえ、は、くみちょうなんだ、ろ?さくら、」 なくな。 信之助の言葉に、佐久良は自分が泣いていることに気づいた。いろいろとされた本人である信之助が泣いていないのに、自分が泣いてはいけない。 「っ、はい。もう泣きません。泣かないから、これからもあなたのそばにいることを許してください」 ―しんのすけさん― 初めて佐久良が信之助の名前を呼んだ。

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