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その⑲本当の自己紹介をしましょう

信之助が怪我をするという事件が起こってから1ヶ月が経過した。その間、信之助は佐久良に手厚く看病された。しかし、看病してくれた佐久良が優しすぎて少し引き気味の信之助。 「おっさんをさ、優しく看病しても何もでねーよ」 「別に、何も期待していないですよ。とにかく俺は、早くポチに元気になってほしいんです」 「俺はもう元気だってば。それに、あの1回きりかよ。俺の名前を呼んでくれたのは」 「当たり前ですポチ。ポチは、ポチなんですから」 そう言って、ニコニコと笑う佐久良。クッソーと思いつつ、仕方なくそれを受け入れる信之助。 「それよりポチ。今日の予定は空いてますか?」 「空いてるも何も、ここ最近俺に予定がないの知ってるだろ?そもそも、俺の予定立てんのはお前なんだから」 「ここは、俺に話しを合わせればいいんです。で?予定は空いてますか?」 「空いてます」 「そうですか。じゃあ、今すぐこれに着替えてください」 佐久良が信之助に用意したのは、オーダーメイドのスーツだった。いろんなことに無知な信之助でも、見ただけで高いと分かるスーツ。それを着ろと言われて、最初は断ったが無理矢理着せられた。 「何でまたスーツなの?」 「ちょっと真剣な話しをしようと思いまして。それには、Tシャツは見た目的にヤバイかなと」 「ふーん。で?真剣な話って何よ」 佐久良が正座をしたから、信之助もそれに合わせて正座をする。本当に真剣な話をするんだなと、ぼんやりと思っていた。 こんなことは初めてだ。もしかしたら、ここから出ていってくれと言われるかもしれない。ここまで迷惑をかけたんだ。もしかしたら、と考えてしまった。 そんな信之助の考えに気づいたんだろう。佐久良が、クスリと笑った。 「今日はただ、改めてお互いを知ろうと思いまして」 「お互いを?」 「そう。だからポチ、もう1度自己紹介をさせてください」 「俺の名前は秋山佐久良と言います。秋島組の組長をしています。好きな食べ物は、ポチの作るハンバーグ。嫌いなのはチーズです。だからグラタンは、出来るだけ作らないでください。いや、作らないでください。あー、最近ハマっているのは、ポチと競ったあのゲームです。ゲーセンに通って腕を磨いたので、今度また対決しましょう。今度は俺が勝ちます。いつ行きましょうか」 「いつって、明日とか?」 「そうですね。じゃあ、明日ゲーセンにでも行きましょう。まぁ、自己紹介はこんな感じでいいですかね」 「いいんじゃね」 「じゃあポチも、自己紹介をしてください」 「あー、田中信之助。って、なんか恥ずかしいわ」 「それだけですか?ほら、もっとポチのこと教えてください」 「いや、だから恥ずかしいって」 本当に恥ずかしそうに頬を赤らめながら、信之助は幸せを感じていた。きっと、佐久良も幸せを感じているんだろう。横目で見た、少し緩んだ佐久良の表情を見て、信之助は確信した。

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