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その21新しい仕事を与えましょう
田中信之助35歳。
この度、首輪をつけることで日給が8万5千円にUPした。金のためなら何でもやる。それが信之助だ。
しかし、その信之助でもこれだけはどうも納得がいかない。
「首輪をつけるのはいいんだけど、これはないと思うよね」
「確かに、それはちょっとやりすぎですかね」
信之助がつけている首輪を見て、藤四郎は苦笑いを浮かべた。それもそのはず。首輪には「ポチ」と書かれた札のようなものがつけられていた。最初、これははずしてくれと頼んだが、絶対零度の笑みを浮かべられたらなにも言えなかった。
これはもう我慢するしかない。信之助はそう感じたが、人としての尊厳がこうなくなっていきそうで。
「佐久良はさ、俺のこと人間と思ってないのかね」
「そういうわけではないですよ。組長は、そんなことを思てたら服なんて与えません」
「あー、ありえそう」
「でしょう。……それよりも、組長なかなか起きてきませんね」
「そーだな」
壁に立て掛けてある時計を見れば、もう朝の8時を過ぎていた。この時間だったら、佐久良はもうとっくのとっくに起きている。それなのに、今日はまだ1度も顔を見ていない。
2人で不思議に思いつつ、仕方がないからと信之助が立ち上がった。
「俺、起こしてくるわ。せっかく作った朝ごはんが冷えるし」
そう言って佐久良の部屋に向かった信之助に、残された藤四郎は手を合わせた。心の中で、「ごめんなさい、信之助さん。俺は組長には逆らえなかったです」そう思いながら。
「おーい、佐久良。起きろ。朝だぞ」
部屋の前で声をかけてみるが、反応は無し。障子を軽く叩いてみるが、これまた反応は無し。仕方がないから、障子を勝手に開けて中に入った。
キレイに整理整頓された部屋の中、ベッドの飢えでスヤスヤと寝ている佐久良。佐久良の寝顔を見ながら、信之助はキレイだなおいと思った。顔が整ってる奴は羨ましいな、とも。
「おーい。起きろ、佐久良」
「………………………」
「さーくら」
「…………………おはようのチューしてください」
「起きてんじゃねーか」
「おはようのチューしてくれないと、ベッドから起きないです。仕事に支障が出ます。組員は困るでしょうね」
「……………どこに」
「口にしてほしいですけど、最初ですからね。おでこか頬でお願いします」
「ちっ。しょうがねーな」
佐久良の顔に近づいて、信之助はそっとおでこにキスを落とした。
「おはようございます、ポチ」
「おはよーさん」
「これ、明日から毎朝お願いします。ちなみに時間は6時から6時15分の間にお願いしますね」
「マジでっ!」
「ちなみに、仕事内容に入ってますから。毎朝のおはようのチュー」
「嘘だと言ってーーーーー!!」
信之助の叫びは屋敷中に響き渡り、それを聞いた藤四郎は耳を塞いで聞かなかったことにした。
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