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その25友達を作ってあげましょう
「改めて。俺は一応島田組の組長をしている島田誠太郎だよ。気軽に誠太郎さんって呼んでね。これでももう53歳だ」
「よろしくお願いします。ちなみに俺は、ポチではなく田中信之助という名前がありますんで」
「じゃあ信之助くんだね。それで、俺のとなりにいるのが篝山柊。俺の右腕だよ。大切な、ね」
大切。その言葉の意味を、信之助は何となく理解した。誠太郎には遠く及ばないが、これでも35年生きてきたのだ。誠太郎と柊が特別な関係だというのは、十分理解できた。
「ま。俺は昔、誠太郎を憎んでたけどな」
「ははっ。殺そうとしてたもんね」
「だな」
ついていけねーと信之助は瞬時に思った。
「ところで、ペットを紹介するだけためにここに来た訳じゃねーよな」
「もちろんです。ちょっと、柊さんに報告したいことが」
「ん。……っと。ペットの前でする話じゃねーな。場所変えるぞ佐久良」
「はい」
「ちょっと待て。そのペットには、まさか俺もって、行っちゃった」
誠太郎の言葉を聞くこともなく、柊と佐久良は部屋を出ていった。残されたのは、誠太郎と信之助のコンビ。初対面の2人が残されて、部屋はシーンと静かになった。
何を話したらいいんだろうか。世間的なこと?いや、そんなつまらない話より、何か楽しい話をして誠太郎を楽しませなければと信之助は意気込んでいた。何せ、つまらないことを話せばあとが怖いと思ったからだ(主に柊)。
そんな信之助の心情を理解しているのか、誠太郎は笑いをこらえるのに必死だった。
「何となく、佐久良が君を選んだ理由が分かった気がする」
「へ?」
「あの子、ああ見えて腐った人生歩んでたからね。あの子が秋島組の組長になった頃は、相当悪い子だったし」
「あいつが?俺にTシャツ+パンツだけで生活させるような、変人が悪い子って」
「ぶほっ。Tシャツとパンツだけって」
「あ、最近は首輪も増えました」
「し、信之助くん。本当のペットじゃないか、ふふっ」
誠太郎が本当に面白そうに笑うから、だんだんと信之助も笑えてきて。終いには、2人で大笑いしていた。
そうしていると、障子が開いて2人の男が入ってきた。1人は20代ぐらいで、もう1人は信之助より少し年齢が高そうな男。
「親父、うるさい」
「ごめん、秀太。直人も、邪魔して悪かったね」
「い、いえ。そんな、」
「親父がうるさいから、直人さんとエッチ出来ないじゃん」
秀太と呼ばれた男の言葉に、信之助は飲んでいたお茶をブッと出した。直人と呼ばれた男は、顔を真っ赤にして慌てて、誠太郎はやっぱりのほほんとしていた。
「本当、ごめんね邪魔をして。もううるさくしないから、今からするといよ」
「親父に言われなくてもそうする」
顔を真っ赤にする直人を引き連れて、秀太は部屋を出た。いきなりのことについていけていない信之助は、ただ呆然としていた。
「今の子、秀太が次期島田組の組長だ。一応俺の子だよ」
誠太郎の言葉に、信之助は首をかしげた。
「え?でも、誠太郎さんは、その、」
「何だい?」
「つ、付き合ってるんですよね。その、柊さんと」
素朴な疑問だった。
“大切な”
この言葉に込められた意味を瞬時に理解していたからこそ、気になったのだ。男と男の間には子は生まれない。でも誠太郎は笑うだけで、何も言わなかった。
言っては、聞いてはいけないことだった。それが分かったけど、これからどうしよう。慌てて視線を巡らせた信之助の目にあるものが目に入った。
「あ、あれ。まさか、最新式ロボット掃除機のルンダっ」
「あ、そうなんだよっ。ずっと気になってて、ついに買ってさ。あとね、コードレスのジェイソンもあるんだよ」
「う、うそっ!!」
信之助の瞳がキラキラと輝き始めた。
「「キャハッ!!!」」
仕事の話を終えた柊と佐久良が廊下を歩いていた時、ちょいと不気味で可愛らしいおじさんの叫びが聞こえたので慌てて誠太郎の部屋に入ると、そこに広がっていたのは。
「あ、ルンダかわいすぎるぅぅぅ」
「でしょぉぉぉぉ」
動くロボット掃除機を、一生懸命写メっている2人のおっさんがいた。
信之助が、初めてヤクザの友達を手に入れた瞬間だった。
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