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その27一緒に夜を過ごしましょう

カルピスとグラス、それからルンダを持ち佐久良の部屋に向かった。着いてすぐ、キレイに整頓された部屋にルンダを放った。 「な!癒されるだろ、ルンダのこの動き。癒しながらこいつ、掃除もするんだぜ。すげーだろ!」 興奮しながらルンダのことを話す信之助に感化されて、佐久良もルンダに視線を向けた。確かに、くるくると動き回るルンダの姿は少し癒された。緩やかな笑みを浮かべた佐久良に、信之助は少しだけホッとした。 そして、酒の代わりにと持ってきたカルピスを注いで佐久良に渡した。最近、信之助がハマってるカルピスの飲み方だ。ルンダを見ながら、カルピスをグイッ。 「ほい。ルンダを見ながらのカルピスは、また格別だから」 「じゃあ、ポチがそう言うなら一杯いただきます」 「ん。飲め飲め」 自分のグラスにもカルピスを注いで、それを一気に飲み干した。プハーッと信之助がやれば、佐久良も控えめだがマネをしてやった。 ルンダを眺めながら、カルピスを飲む。そうするだけで、信之助は何も佐久良に聞かなかった。それが佐久良にはありがたくて。ルンダを見ながら、ゆっくりとカルピスを飲んでいたら自然と言葉が出てきた。 「今日、兄と会ったんです。仕事で、久しぶりに」 「兄って、お前兄ちゃんいんのか」 「はい。兄も一応ヤクザで、今は若頭ですよ」 「へぇ。お前、兄ちゃんより先に組長になったんだな」 「当たり前です。この秋島組は俺が作った組ですから」 初めて聞くことばかりだった。佐久良に兄がいること、秋島組は佐久良が作った組だと言うこと。確かに信之助は不思議に思っていた。佐久良はまだ23歳だ。そんな若さで、秋島組の組長としてやっている。秋島組には、佐久良よりも年齢が高い人がほとんどだ。 それなのに、誰もが佐久良を認めて慕っていた。そこには何かがあるんだろうとは思っていたが、もっと奥深い何かが佐久良達にはあるんだと実感した。 「あの人が嫌いで、大嫌いで、離れたくてこの組を作りました。でも、俺はまだあの人から離れられてない」 「………………」 「兄に会って、それが十分理解できました」 佐久良が泣いた気がした。実際には泣いていないのだが、佐久良の心が泣いたと信之助は思った。 自分にはきっと理解できない世界。でも、それでも自分に出来ることはある。 「………………ポチ、何をやってるんですか?」 「何って、お前のポチだから腹見せて寝てやってるんだよ。お前の太ももかてーなおい。寝心地はよくない」 信之助が取った行動。それは、佐久良の太ももに頭を乗せ、仰向けになることだった。下から佐久良の顔を見上げて、頬にそっと手を添える。 「さくら」 「………………はい、」 「俺はさ、まだ佐久良のことを本当の意味で理解は出来ねーと思う。でもさ、お前が頑張ってるのは理解できる」 「っ、」 「だからさ、お前はそのまんまでいーの。後ろは、お前を慕ってる奴等が守ってるんだから。だから、心配すんな」 「ぽ、ち」 「さくら」 グイッと胸元を引っ張って、佐久良の顔を自分に寄せた。近づいたところで、軽く額に唇を当てる。信之助が、自分から進んで佐久良にキスをするのは初めてだった(おはようのチューは除く)。 「俺はきっと、後ろを守るとか出来ねーから。お前が休みたい時に休める場所になってやる」 信之助の言葉に頷いた佐久良。 そうして、2人だけの時間を過ごしていたら、自然と同じベッドで眠っていた。 その時の佐久良の寝顔は、年相応の穏やかなものだった。

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