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その33イギリスへ行きましょう
信之助は、佐久良のネクタイを締めてあげたことで、イギリスに来ることになるとは思わなかった。いや、誰だって思わないだろう。でも、イギリスにいるのは事実だった。
あのあと、パスポートを探し終えた信之助をあれよあれよという間に準備をさせ、藤四郎が慌てて取ってくれた飛行機に乗り、イギリスに降り立った。
パスポートは作ってあったが、こんな遠い場所まで来たことなかった信之助。驚くことがいっぱいだったが、今は初めて生で見るイギリスの風景に酔いしれていた。
「それで?弟さんには連絡取れましたか?」
「取れた取れた。久しぶりだし、繋がるかなって思ったんだけど。電話番号変わってなかった」
飛行機に乗る前、信之助は弟に連絡をしていた。今からイギリスに行くと言えば、驚かれたが喜んでくれた。早く会いたいらしい弟が、信之助達を迎えに来る手はずになっている。
「そう言えばさ、佐久良はイギリス来たことある?」
「ないですね。行ったことがあるのは、イタリア、ロシア、フランス、それからアメリカとか、カナダとか」
「すっげー海外行ってるじゃん」
「まぁ。でも、海外は危ないですから俺から離れないでくださいね、ポチ」
「当たり前!俺こんなところでお前とはぐれたら、生きてけない、やってけない。無理」
少し不安げに佐久良の服の裾を引っ張る。すると、その手を取られ軽く握られた。
「こうしていましょう。はぐれないように」
「ま、ここは日本じゃないし。別にいっか」
日本だったら他人の視線が気になったが、ここはイギリスだ。自分達を知っている人はいないはずだと、信之助はそう思うことにした。
だから、そのまま佐久良と手を繋いでいると2人の目の前に1台の車が止まった。しかも、すごく高い高級車。日本で買っても、うん千万する高級車が。
でも、その高級車のドアが開いて降りてきた人を見て、信之助は飛び付いた。
「信太郎っ!」
「信之助っ!」
その高級車から降りてきた人物こそ、信之助の双子の弟の田中信太郎だった。
一卵性の双子。顔とか髪色とか、体格とか。すべてが似ている双子。あえて違うところをあげるとするならば、頭のデキぐらい。
「会いたかったよ、信之助」
「俺も、信太郎」
同じ顔が抱き合いながらイチャついている姿を、佐久良は冷めた目で見ていた。
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