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その37高級レストランへ行きましょう
真新しい高級スーツを着た4人が向かったのは、誰もが知る高級レストラン。口をポカンと開けるのは信之助だけで、他の3人は慣れたように店の中に入っていく。と言っても、信太郎は慣れたフリをしているだけでものすごい緊張している。それを悟られないように、フィリップのマネをしているだけだ。
「ポチ?ほら、そんなに口を開けて驚いてないで中に入りましょう」
「なんだ。俺は明日死ぬから、高級なスーツを買い与えられこんな高級レストランに入れるのか」
「そんなわけないじゃないですか。フィリップさんのご厚意です。ほら、早くしないと。あの2人も待ってますから」
佐久良に手を引かれ、信之助もようやく店の中に入った。出迎えてくれた店員は、フィリップの腕に引っ付いている信太郎の姿を見ても、手を繋いでる佐久良と信之助を見ても動じることはなかった。さすが高級レストランの店員。
「本当は個室を用意したかったんだが、急で無理だったんだ。すまないね」
「いえ、大丈夫ですよ。ねぇポチ」
「お、ぉぉおれは大丈夫れ、す」
「信之助、緊張してんの?佐久良くんの手をギュッと握っちゃてさ」
「お前こそ、フィリップさんの腕にしがみついて震えてるくせに」
「べ、べべべ別にふるえ、てないし!」
「本当、たまはいつまでたっても初で可愛いな」
こんな光景を見ても、店員は動じなかった。
「ほら。好きなのを頼むといい。ここは俺が全額だそう」
フィリップがそう言ったが、信之助は正直メニュー表を見ても何がなんだか分からない。全部英語で書かれているのだ。バカな信之助には、到底読めるものではない。他3人は普通に読めるため、各々メニューを選んでいた。
「さくら、さくら」
「はい?」
「俺、英語読めないから何て書いてるか分かんない。お前と一緒のやつ頼んで」
「いいですよ。海老を使った料理を選んだので、ポチでも食べられるはずです」
佐久良の気遣いに、信之助の胸が少しだけキュンとした。けしてときめいた訳じゃないとブンブン首を横に振って、用意されていた水を飲もうと手を伸ばした。すると、元々置かれていたフォークに手が当たり、がしゃんと音をたてて床に落ちた。
あ、と思い落ちたフォークを拾おうとする信之助。それを見ていた信太郎は、拾わなくてもいいと止めようとした。すると、止めようとして立ち上がった信太郎の体がたまたまテーブルに当たってしまい、置いていた水が入ったグラスが倒れた。
それを見ていた周りの客から、クスクスと笑い声がこぼれる。信之助と信太郎は、その笑い声を聞いて唇をギュッと噛み締めた。
すると、そんな2人の様子を見ていたフィリップと佐久良が行動を起こす。
フィリップは、自分のグラスを倒して水をこぼした。佐久良は、自分のフォークを床に落とした。
「たま。俺も水をこぼしてしまったよ」
「俺は、ポチと同じフォークを落としてしまいました」
だから、俺達のことも一緒に笑うんですよね。
そんな視線をフィリップと佐久良は、冷たいオーラと一緒に周りへ向けた。
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