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その44一緒の部屋になりましょう
3時間かけて、信之助の歓迎会の話し合いは行われた。無事に日にちと時間も決まった。
そして信之助は、さっき物騒なことを話していた人達に犬耳のプレゼントはいらないと、佐久良がいない間にこっそりと伝えられたことにホッとしていた。これで歓迎会当日、変なプレゼントはないだろうと思いたい。
「でも、本当に俺なんかの歓迎会してもらっていいのか?」
「いいって言ってるじゃないですか。ポチは気にせず、ただ主役であればいいんです」
「そう言われてもなぁ」
そう思いつつも、信之助は嬉しそうに笑っていた。
「じゃあ今日は慣れない会合もありましたし、ゆっくり休んでください」
屋敷に帰り着いて、佐久良は信之助にそう伝えるとそそくさと部屋に戻っていった。仕事がまだ残っているらしく、今日中に仕上げたいと車の中で話していたからそれをするのだろう。
ゆっくりと言われても、そこまで疲れを感じていなかった信之助。でも、佐久良に言われた通り部屋に戻ってゆっくりとした時間を過ごしていた。
「ひま」
部屋の中、ポツンと1人で最近お気に入りのモコモコクッションを抱きながら天井を見ていた。
いつもなら、晩ごはんの準備をしているのに。今日はお疲れになるでしょうからと、藤四郎が朝のうちに晩ごはん用の出前の予約をしていた。だから、 信之助はすることが何もなかった。
それよりも、暇以前に信之助は、この部屋を寂しいと思うようになっていた。イギリスから帰国した頃から。
イギリスの高級ホテルで、佐久良といた時はそんなこと何1つ感じなかったのにだ。 あのホテルの部屋よりも狭い自分の部屋を、寂しいと思うようになった。
「…………………覚悟、決めるしかねぇのかね」
そうポツリと呟いた信之助は、お気に入りのモコモコ数点とスマホと充電器を持って部屋を出た。もちろん向かうは、佐久良の部屋。
「佐久良~、入るぞ」
佐久良の返事を聞かずに、信之助は部屋の障子を開けた。部屋の中に佐久良はいた。眼鏡をかけて、パソコンで仕事をしているようだった。
「どうしたんですか?」
仕事の邪魔になるのは十分承知の上。
「な、さくら」
「はい?」
「今日から俺、佐久良と一緒の部屋で過ごすから」
信之助の宣言に、佐久良は口を開いて驚いていた。
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