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その46会場へ向かいましょう
ついに、信之助の歓迎会の日が来た。ドキドキとしながら、車で歓迎会の会場へと向かう。信之助のドキドキっぷりを見て、佐久良は面白そうに笑っていた。
「子供みたいですね、ポチは」
「子供じゃねーし!これでも35歳のおっさんだぞ」
「でも、子供みたいにドキドキしてるじゃないですか?」
「どんな歳の人だって、自分のためにしてもらえる会とはかドキドキするものなの!」
ぶぅと言った感じで信之助が唇を尖らせた。それも子供っぽく感じて、今度は声をあげて笑った。どうも、車の運転をしていた藤四郎は佐久良がこんな風に笑うのを見たことがないようで。怖いものを見てしまったかのように、ミラーを見ていた。
でも、藤四郎も佐久良も信之助の気持ちは、分からなくもない。やっぱり、自分のために何かをしてもらうことは嬉しいものなのだ。まぁ、信之助みたいにドキドキする訳じゃないが。
「今日の歓迎会ってさ、どんなことしてくれるんだろうな」
「さぁ。俺達はあまり関わってないですからね。秋島組の下の組員は、けっこう関わっているみたいですけど」
「あー、俺がチラッと聞いた話では、最新掃除家電の紹介とか、自己紹介とか、モコモコプレゼントとかなんかそんなのするらしいですけど」
「わぉ!なんかよく分からんが、掃除のやつとかモコモコのやつとか、俺貰えんのかな?」
「貰えるんじゃないですか?俺も、ポチにプレゼントを用意したので楽しみにしててください」
「………ちょいと、佐久良のプレゼントは楽しみに思えないかな」
佐久良が楽しそうにニッコリと笑った時はろくなことがないと、信之助は十分理解していた。プレゼントを用意したと言った時の佐久良の顔は、ニッコリと笑っていて。信之助の背筋がゾクッとした。
「あ、俺も準備しましたよプレゼント。恋人と一緒に選んだやつですけど」
「おー。藤四郎のは楽しみにしとく!でも、恋人と選んだのか。ふふっ」
「信之助さん。何ニヤニヤしてるんですか。気持ち悪いですよ、本当」
藤四郎と信之助の会話を、佐久良が無表情で聞いていた。それもそのはず。自分のプレゼントは楽しみじゃないのに、藤四郎のプレゼントは楽しみと言ったのだ。
それに佐久良が嫉妬しない訳がなかった。
「おい、藤四郎」
「どうしたんですか、組長」
「お前、明日オフだったよな。それ、無しな。やらせたいこと思い付いたから、明日仕事」
「何ですかそれ!明日は秋 とデートの約束が、」
「仕事だ、仕事。秋さんには、俺から事情を話す。心配すんな」
「…………はい、」
運転をしながら、藤四郎は項垂れた。
自分のせいで、藤四郎の恋人とのデートがおじゃんになったとは気づいていない信之助は、窓の外を見ながら早く着かないかなと思っていた。
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