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その49お礼を言いましょう

信之助の歓迎会は、途中で歓迎会ではなくなったが楽しいものだった。酒を飲んで皆で笑い、美味しいものを食べては笑い。信之助は、最新式の掃除機を見ては興奮し、モコモコを抱いては癒されていた。 歓迎会の会場には、ただのおじさん、それかただのヤンチャな若い坊主達しかいなかった。皆ヤクザである。でも、この時だけはただの人だった。 「信之助くん。ちょっといいかな」 信之助も、皆が騒いでいる様子を1人で酒を飲みながら見ていた時だ。誠太郎が、信之助でも知っている高い焼酎の瓶を手に持ちながら隣に座ってきた。元々隣に座っていた佐久良は、藤四郎と秀太に制裁に行った後、秋島組の組員に捕まり一緒に飲んでいる。 「どうぞ。佐久良も戻ってくる様子はないみたいですから」 「ありがとう。信之助くんは、焼酎飲める?」 「一応は。今禁酒中なんで、あんまり飲めないんですけど」 そう言ったのに、酒の入ったグラスを傾ける信之助(本日6杯目)を見ながら、誠太郎は楽しそうに笑った。そして、自分が持ってきた焼酎を空いているグラスに注いで、信之助に渡す。 「それなら、酒はこれで最後にした方がよさそうだね」 「ですね。禁酒中なのに、ちょいと飲みすぎたみたいです」 グラスをカチリと合わせて、グイッと半分ぐらい飲んだ。自然と、信之助から笑みがこぼれる。 「どうだい?今日の歓迎会は、信之助くんにとって楽しめるものだった?」 「十分に。組員でもないのに、ここまでしてもらってありがとうございます」 プレゼントで貰った最新式の掃除機と、モコモコグッズを見ながら誠太郎にお礼を言った。信之助は、確かに秋島組にいる。でも組員でもない。それなのに、こうして歓迎会を開いてもらえるのはありがたいものだった。 「いいんだよ。それにね、俺もお礼を言いたい」 「俺に?」 「そう」 誠太郎は、目を細目ながら組員と酒を飲んでいる佐久良を見た。それはまるで、親が子を愛おしそうに見る感じにそっくりで。信之助は、少しだけ羨ましいと感じた。 誠太郎と佐久良の間には、自分には分からない絆がたくさんありすぎる。それがほんの少しだけ寂しいのだ。 そんな信之助の気持ちを、誠太郎は気づいていたのか。信之助にも、親が子を見る時の視線を向けた。 「俺はね、佐久良があんなに楽しそうに笑った姿を見たことがないんだ」 「……………」 「いつもいつも、笑う時はうわべだけ。それが寂しかったんだけど」 “今は、あんな風に楽しそうに笑ってる” 「それが、?」 「きっと、信之助くんがいるからだろうね。君があの子に笑顔を与えたんだよ」 ありがとう。頭を下げながらお礼を言ってくる誠太郎に、信之助は少し照れ臭そうに笑って自分も頭を下げた。

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