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閑話
【もしも、男同士でも妊娠、出産出来る世界だったら】
産まれたばかりの子供を抱きながら、信之助は病院を抜け出した。早く逃げないと、迷惑をかけてしまう。
初めて自分が妊娠したと知った時、本当に嬉しかった。35歳の自分でも、親になれるんだって。それを一緒に聞いていた佐久良も、泣きながら喜んでいた。自分達の想いが、やっと報われた気がした。
でも、それをよく思わない人達だっている。何せ、男同士の妊娠はいまだに世間的に批判を浴びてしまう。佐久良は組の組長で。トップの立場の人が、男と付き合いそしてその間に子ができたと知れればバカにされてしまう。
だから、何度も佐久良に信之助と別れるように進言していた。でも、佐久良はそれを聞かず信之助を大切にしていた。
嬉しかった。信之助は本当に。佐久良と一緒にいられれば、きっと大丈夫。3人で、組を守っていこう。信之助はそう思っていたのに。聞いてしまったのだ。
病室の前で、自分達の関係を否定する人達が話していたことを。
それは、佐久良を組長の座から引きずり下ろそうと言うものだった。
それはダメだ。佐久良は、何よりも自分の組を大切にしていた。それを知っていた信之助だからこそ決意したのだ。
産まれたばかりの子供をつれて、佐久良の目の前から消えよう、と。
だから、帝王切開で出産を終えて喜ぶ佐久良達の目を盗んで逃げ出した。何回も電車を乗り継いで、自分でも知らない土地に降りたって。そして、信之助と産まれたばかりの息子の2人の生活が始まった。
初めての子供の世話は、信之助には大変なものだった。子育てをしながら、生活をするために仕事をする。毎日毎日ボロボロになりながら、それでも子供のために信之助は頑張っていた。
頑張っていたけれど、信之助は精神的に限界を迎えていた。
夜、泣き止まない子供を抱きながらフラフラと歩いていた。もう、自分だけでは無理だ。佐久良と自分の子供だから頑張ってきたけれど、もう限界だ。
「……………さくら」
気づけば、信之助の瞳からホロホロと涙が溢れ落ちた。何度も何度も佐久良の名前を呼びながら、泣き止まない子供にすり寄る。
「泣かないでください」
懐かしい声がしたと思ったら、後ろから抱き締められた。ふわりと香る香水の匂いは、信之助が嗅ぎ慣れた大好きな匂いで。
「俺のいないところで、泣かないでください。ポチ。信之助さん」
ずっと会いたいと思っていた。でも、会ってはいけないと思っていた。佐久良のことを思うのなら、自分は手を引こうと。
でも佐久良は、そんな信之助を探してここまで来てくれたのだ。
**********
信「なにこれ」
佐「コンテストにちなんだものを、書いてみようかと」
信「そうしたら、何で俺が妊娠してお前とイチャラブ状態なんだ」
佐「それはもう、俺とポチが愛し合っているからですよ」
信「愛し合ってねー!」
佐「そんなこと言わずに。ほら、ポチ。俺達もそろそろ子供を作りましょう」
信「いや、男同士妊娠は出来ないからなぁぁぁぁ!!!」
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