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その51現実を受け入れさせましょう
ハッとしたように信之助は目を覚ました。覚ました途端、ものすごい頭痛に襲われる。ガンガンとして、このままいっそう頭だけをポーンと切り離してしまいたいような痛み。
昨日、禁酒中なのに飲みすぎたと反省をしながらのそりと起き上がる。そして起きて、自分の左手の薬指に指輪がはめられていることに気づいて、目を大きく見開いた。
これは夢だ。きっと、酔いすぎて見ている夢なんだ。昨日飲みすぎなければ、こんな夢を見ることはなかったんだ。
夢なんだから、もう1度寝たら現実に戻れると思った信之助は、寝ようとした。でも、そんな信之助の様子を見ていたらしい佐久良が身体をつかんでそれを止める。
「おはようございます、ポチ。いや、ハニー」
「はい?」
「朝起きたばかりであれですけど、結婚式いつにします?ウエディングドレスもいいですけど、やっぱり神前式もいいですよね!でもここはやっぱり、ヤクザらしく神前式の方が、」
「ちょーーーっと待て、佐久良」
ガンガンとする頭を押さえながら、信之助は困惑していた。なぜ、昨日は普通?だったのに今日の朝になって佐久良がおかしくなっているのか。
ハニーと呼んできたり、結婚式のことを話したり。そもそも、結婚以前の問題で付き合ってないとさえ思っていた。
やっぱりこれは夢だ。だから寝た方がいい。
でも、佐久良が出してきたボイスレコーダーから流れてくる声に信之助は耳を疑った。
『ポチ。この指輪は俺の気持ちです。だから、俺と結婚してください。そして、この指輪を受け取ってください』
『んー、いいよぉ!』
「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
朝から信之助は、驚きのあまり叫んでしまった。組員が起きてしまうとかそんなの関係なしだ。これは、驚かずにはいられない。
ボイスレコーダーから流れてきた声は、紛れもなく自分と佐久良の声。しかも佐久良は、信之助にプロポーズをしていて。そしてそれを信之助は受け入れていた。
おかしい。これはおかしい。自分は昨日、こんなプロポーズを受けた覚えがないと思ったが、納得がいった。
昨日自分は酔っぱらっていた、と。
「佐久良。昨日さ、もしかしてお前、俺にプロポーズしたの」
「はい」
「それを俺は受け入れた、と」
「はい」
「でもさ、この時俺酔っぱらってたよね。だからな、」
なしにしようと、信之助は言おうとした。けれど、佐久良がそれを受け入れるわけもなく。
「もう皆に、俺とポチが結婚するって言っちゃいました」
信之助が止める暇もなく、外堀はもう埋められていた。
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