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その52愚痴らせてあげましょう

「だからって、急に結婚するとか酷くないですかっ!?」 「あははははっ。さすがは佐久良だよ」 信之助が怒っている横で、誠太郎が面白そうに笑った。誠太郎が笑ったことで、自分の味方は誰もいないと理解した。こっちはけっこう真剣に怒っているのに、誠太郎からすれば他人のことだから面白いんだろう。 そもそも、酔った人に何て約束をさせるんだと信之助は思う。もう少しで佐久良を好きになれそうだったのに(というより、気づいてないだけで本当は、)。このことで、信之助の中の佐久良の株はギュンと下に落ちた。 その佐久良は今、柊と仕事の打ち合わせだ。誠太郎は組長だが、邪魔だからと追い出された。 「まぁ、そこまで怒んなくても。もしかしたら佐久良、冗談かも、」 「ウエディングドレスと白無垢、どっちとも用意してた奴が冗談でしたって言うと思います?」 「あ………。もうそこまで準備終わってたんだ」 誠太郎も、信之助の言葉で佐久良の本気度を理解したんだろう。信之助の肩を叩くと、親指をたてて健闘を祈った。 そんな誠太郎の態度にも、いろいろ溜まってきた信之助は叫ぼうとした。今この場にはいない佐久良にも聞こえる声で。 でも、その時島田組の屋敷の前で車が停まる音がした。 信之助と誠太郎の視界に入る場所で遊んでいたアレキサンダーが、勢いよく門に向かって走り出した。何か不審に思ったのだろうか。 信之助も気になって、立ち上がった。 「俺気になるんで、ちょっと行ってきます!」 そう言った信之助を誠太郎が止めようとしたが、聞かずに門の元まで走っていった。 そして門に着けば、アレキサンダーが誰かに向かって唸っていた。グルルと唸るアレキサンダーに恐怖を感じてか、中には入ろうとしない。 誰か来たか気になって、信之助が門から顔を出そうとした時だ。急に腕を引っ張られて、その場所に停めてあった車に無理矢理押し込まれた。 アレキサンダーが吠えて信之助を助けようと、車に押し込んだ人の足に噛みついた。 「信之助くん!!」 追い付いたらしい誠太郎が、顔を真っ青にして信之助の名前を呼んだ。信之助もここにいると気づいてもらおうと、誠太郎の名前を呼ぼうとした。 でも、信之助が名前を呼ぶ前に、横に乗っていたらしい男が口を塞いできた。 そして、アレキサンダーに足を噛まれた人もどうにかしてアレキサンダーの噛みつきから逃れてきた。 そして当たり前のように車に乗り込むと、その車はそのまま走り去った。 「しんのすけくん!!!!」 誠太郎の叫び声と、アレキサンダーの吠え声が響き渡った。

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