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その53シリアスに……

車で連れ去られた信之助。自分、このまま殺されるんじゃないかと思ったがそんなことはなかった。何故なら、信之助を連れ去った奴等が後悔しているからだ。それはもう、ものすごい勢いで。 やべーよ、やべーよと頭を抱えながら部屋をうろちょろしている。しかもここは、臨賀会所有の建物だ。信之助も来たことがあった。 「………確かあんた、猪原じゃなかったっけ」 「………そうだ」 「何であんた、俺を拐ったの」 「秋島組に恥をかかせたかったんだ、」 信之助を拐った奴等、猪原組の組長である猪原と組員数名。どういうわけか、佐久良を恨んでいるらしい。そして、その佐久良が率いる秋島組に恥をかかせたくて、信之助を拐ったらしい。 しかし信之助は、自分を拐ったところで秋島組は恥をかかないだろうと思っていた。そしてそれを、信之助を拐った後で猪原も気づいたのだろう。それで後悔しているのだ。 「あんたも何か、大変なんだな」 「……………そうなんだよっ!」 信之助が声をかけると、叫んだと思ったら猪原が急に泣き出した。猪原組の組員も、どこか涙目になっている。 「猪原組の仕事、全部秋島組に取られたんだっ!!その理由が何だと思うっ!秋島組の組長の方がかっこいいから。ふざけんなっ!」 「うっそーん」 「しかもっ!猪原組から何十人も組抜けして、秋島組に入ってるし!その理由が、あっちの組長の方が頼りになりそうって、そんなに俺頼りないか!?」 「組を抜けるって、そんなに簡単に出来るもんなんですかね」 「出来ねぇに決まってるだろっ!本当は、断指しなきゃなんねーけど、大切な仲間にそんなことさせれねーよ」 信之助は、猪原の話を聞きながらこの人はヤクザに向いてないなと思った。優しすぎるのだ。だから、佐久良にも仕事を取られるし組員も取られる。佐久良が自主的に取ったわけではないが。 それでも、こんな優しすぎる人がこの世界に身を置くのも何か訳があるのだろう。 理由を聞きたかったけれど、泣いている猪原には何故か聞けなかった。聞いてはいけない気がした。だから、自分と近い年齢のおっさんだけど抱き締めてあげた。 「まぁ、何だ。佐久良にいろいろ取られたみたいだけど、それでもお前のそばを離れないすごい奴等がいるじゃん」 「………おぅ」 「だったら、次から頑張ろう。佐久良に負けないように」 そう、キレイな感じで終わるかと思いきや、信之助を助けに佐久良が現れた。現れた佐久良が、「よくも俺のポチをっ、」的なことを叫ぼうとした。だが、それよりも先に信之助がこう言った。 「佐久良。お前のその顔、1回どうにかしろ」 「………は?」 信之助の言葉の意味を、佐久良は全然理解できなかった。 そして、そんな光景を黙ってみていた藤四郎が最後に一言こう言った。 「シリアスになると思ったけど、なんなかったな」

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