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その54厳しい現実を教えてあげましょう
「まぁ、ポチのせいで怒る気は失せたんですが」
ギロリと、正座をしている猪原を佐久良は睨んだ。猪原の隣に座っている信之助が、猪原を睨むなと佐久良に言うものだから。尚更、佐久良の睨みはきついものになっていた。
佐久良の後ろに控えていた藤四郎は、そんな3人の無言のやり取りを見ていて呆れている。
「でも、ケジメはつけさせるべきだろう」
柊と誠太郎も自分の組の前で信之助が拐われたので、助け?に来ていた。それで柊が、厳しい言葉を放ったのだ。
猪原は、別の組の人間を危険な目に合わせた。信之助に言わせれば、全然危険じゃなかったが。
それでも、こういった他の組への裏切りは臨賀会の内部の組の信頼関係に問題が生じてくる。早急に対処すべきなのだ。
裏切り者には制裁を。この世界では当たり前の流儀だが、信之助がそれをかたくなに許そうとはしなかった。
「何甘いこと言ってるんだって思うかもしれないけど、この人達に酷いことをするのだけはやめてください」
信之助が柊にそう頼むが、なかなか受け入れてはもらえない。それもそのはず。そんな甘いことをしてしまえば、次から次へとこれなら大丈夫でしょうという組が現れていくのだ。
「んな甘いことが通用する世界じゃねーんだよ。組を解散するとか、そこまでいかねーと」
「っ、待ってください!!!」
黙って会話を聞いていた猪原が、急に叫んだ。そして、柊や誠太郎に向かって土下座をする。
「組を解散するのだけはっ!あの人が、あの人のために、残しておかなきゃなんないんです!」
信之助には、何がなんだか分からなかった。それでも、猪原が似合わない組長の座に居続ける理由が何となく分かった気がした。
猪原のいう「あの人」の帰る場所を守ってるんだ。それほど大切だから、似合わなくても無理でも身体はって頑張ってるんだ。
「でも、あいつはもう戻ってこないだろう」
「戻ってきます!!絶対にっ」
誠太郎が、戻ってこないと諭しても猪原は譲らなかった。帰ってくると、ただ帰ってくると言い続けた。
「だったらぁ、猪原組は俺に預けてくださいよぉ」
少し間延びた声が聞こえた。そして、その声の主は柊達の後ろから現れる。
この場にいる誰よりも背が高くて、髪型は流行りを取り入れた短髪。目を細めて、ニコニコと笑っている。
信之助は、初めて見る男だった。
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