秋島組が、猪原組のことでせっせと動いていたある日のこと。秋島組の屋敷に、１人の男性が訪ねてきた。少しポッチャリとしていて、優しそうな男性。忙しそうで出られない組員の代わりに、佐久良からズボンを穿く許可と首輪を外す許可を貰った信之助が出迎えた。 「すいません、藤四郎は今ここにいますか？」 「今は仕事で出てるけど、どうする？ここで待っとく？もうちょっとしたら帰ってくると思うけど、」 そう言ったあと、一般の人しかも知らない人を屋敷に入ると促してよかったんだろうかと信之助は思った。だが、たまたま近くを通った組員がその男性のことを知ってたみたいなので、気兼ねなく入れることができた。 「へぇ。藤四郎の幼馴染みなんだ」 「まぁ」 「じゃあ、藤四郎の恋人知ってる？まだ１度も写メとか見たことないんだよなぁ」 そう男性に信之助が聞いてみたら、まぁ聞かれた方は顔を真っ赤にして。その反応で、３５年も生きている信之助は気づいた。この男性が、藤四郎の恋人だと。 やっぱり信之助はおっさんで。手で口許を隠しながら、ニマニマと男性の方を見た。頭の中で、こんな初な反応して、可愛いなこのっ！ぐらい思っている。 「へぇへぇ。君が藤四郎のこ・い・び・と」 「うぅ」 「あらあら、真っ赤になっちゃって」 顔を真っ赤にする男性を信之助がいじろうとしたところ、慌てたようにして藤四郎が帰ってきた。 「晴(はる)！お前、あれほどここには来るなって！」 「藤四郎が連絡くれないのが悪いんだろっ！ごはんとか食べてないんじゃって、俺心配してたんだからな」 「っ、悪い」 信之助に気づかず、藤四郎は恋人とイチャイチャしていた。それをニマニマと見つめる信之助。１分ぐらい経ったあと、ようやく藤四郎が信之助の存在に気づいた。 「し、信之助さんっ！？」 「おやおや、藤四郎くんやい。君が、恋人には頭の上がらない甘ちゃん坊やだったとは」 「う、うるさいですよっ」 「甘ちゃん坊やや。俺に、恋人紹介してくれないの？」 「……………杉本晴(すぎもとはる)。俺の幼馴染みで、恋人です」 いつかは信之助にも、自分の恋人を紹介しようと藤四郎は思っていたが。こんな形で紹介するとは思ってもいなかった。 だが、紹介できたからよかったとこの時思っていた自分を後に藤四郎は恨むことになる。 これがきっかけで、メル友になった信之助と晴。その晴から、藤四郎のことをいろいろ聞いた信之助が藤四郎をいじるようになったのだ。 そしてしばらく秋島組での藤四郎の立ち位置が、「恋人に頭の上がらない甘ちゃん坊や」になったのは言うまでもなかった。