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その58ゆっくりと過ごしましょう

「ま、お前のしてほしいこと出来るかぎりしてやるから。まずはゆっくり寝なさい」 「でも、そこまで眠くはないんですよね」 「んな大量の隈を目の下に蓄えた男が何言ってんだ」 ベッドに佐久良を寝かせ、信之助は子供を寝かせるようにとんとんとリズムよく布団を叩いた。まぁ、こんな子供じみたことで佐久良が寝るわけないとは思っていたが。信之助の予想を打ち破り、佐久良はベッドに横になって2分もしないうちに寝た。 余程疲れていたのか、目をギュッと瞑って眉間にシワを寄せて寝ている。 「んな、寝てる時も力いれてどうすんのよ」 佐久良の眉間を、起こさない程度に優しく撫でる。少しでも穏やかに寝てほしいからだ。しばらく眉間を撫でていたら、だんだんと佐久良が力を抜いてきて。いつのまにか、眉間のシワもなくなっていた。 佐久良が寝たのを確認すると、信之助は朝ごはんの準備に取りかかる。今日は佐久良には仕事をさせるつもりは全くないので、藤四郎を含めた組員が急いで食べれるようにと、おにぎりなどの片手で食べれるものを用意した。 昼食べる時間がないのを考えて、昼の分もおにぎりを握る。 大量に炊いた米をせっせと握って、佐久良用におじやを作る。雑炊にしてもよかったが、一度体調を崩したことのある佐久良がおじやの方を好んで食べた。それを思い出したのだ。 最近、佐久良が食事をとっている姿をほとんど見ていなかった。食べてはいたんだろうが、どんなものを食べていたからよく分からない。 だから、少しでも胃に優しいようにとおじやを作ることにした。 おじやが丁度出来上がった頃、藤四郎達がぞろぞろと起きてきた。そして信之助が作った朝ごはんをパパッと食べると、さっさと仕事に取りかかっていた。 「じゃあ藤四郎、今日はいろいろと頼んだ」 「そちらも。組長をよろしくお願いします」 藤四郎を見送って、信之助は出来上がったおじやを持って佐久良の部屋に向かった。部屋にはいると、佐久良はまだ眠っていた。 「…………寝かせといてやるか」 おじやを棚の上に起き、佐久良の部屋に置いてあったマンガを読む。ペラ、ペラ、と信之助が漫画のページを捲る音と、佐久良の寝息が聞こえる。それを聞いていた信之助は、たまにこんな日があってもいいなと思った。

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