「ん。おじやも全部食ったな」 「はい。美味しかったです」 「これからどうする？また寝るか？」 空になった小さな土鍋をキッチンに持っていこうと立ち上がって、これからどうするのかを佐久良に聞いた。信之助からすれば、本当はまだ眠ってほしい。だが、１度起きてしまえばなかなか寝れないのも理解できる。 「することもないですし、ここで出来る仕事を、」 「却下だ」 することがないから仕事をしようと言った佐久良を、信之助は速攻で止めた。仕事のしすぎでいろいろと溜まっていたと言うのに、あんまり休んだと言えない状況でさせるわけにはいかなかった。 しかも、藤四郎から佐久良をよろしくと頼まれている。ここで佐久良に仕事をさせれば、藤四郎を裏切ることになるのだ。 「疲れきってるお前に、仕事なんてさせてあげません」 「でも、早くして猪原さんを助け出さないと」 佐久良が急いで仕事を終わらせようとする理由も分からなくはなかった。今、秋島組が抱えている仕事。猪原組の組長を、茜という男から離すというもの。 猪原が、茜と一緒に去っていたのを信之助も見ていた。状況からして、茜が危険な男であること。佐久良も誠太郎達も、茜にはあまり心を許していないこと。そして何より、茜が猪原に異常なまで執着していること。これを踏まえて、早く離さなければならないというのも理解できる。 だからといって、無理する佐久良を放ってはおけなかった。猪原のことも心配。でも、信之助にとって１番心配なのは佐久良なのだ。 「確かに、猪原が心配なのも分かるけど。俺はそれ以上に佐久良が心配なの」 「ポチ」 「猪原の代わりはいない。でもさ、佐久良の代わりもいない。猪原と佐久良、どっちかしか選べないんだったら俺は真っ先に佐久良を選ぶぐらい、お前が大切なんだよ」 小さな土鍋を棚の上に置いて、信之助は佐久良に抱きついた。泣きそうになっている顔など見られたくない。だから、佐久良の肩に顔を埋めた。 「お願いだから、あんま無理すんなよ」 信之助がこんな風になるまで自分は心配をかけた。それをやっと理解した佐久良は、優しく信之助を抱き締めた。 「――――――ごめんなさい、信之助さん」 そう言った佐久良の声も、泣きそうに聞こえた。