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その61式場を探しに行きましょう

「猪原さんの件、片付きました」 清々しい笑顔で佐久良が信之助に言ってきたのは、無理に休ませてから3日後のことだ。休んだことで疲れがなくなり、悪魔のごとく仕事をこなしたらしい。藤四郎が、しばらくは組長と仕事したくありませんと言ったぐらいだ。 どうやって猪原を助けたとかは、佐久良は何も言わなかった。それに、信之助も聞かなかった。信之助はヤクザではない。秋島組にいるが、ただそこにいるというだけの一般人だ。 佐久良と信之助は、そこを互いに理解しているから何も話さなかったし聞かなかった。 「佐久良。お疲れ様」 「はい。猪原さんも無事ですから、ポチが心配することはありませんよ」 「おぉ!」 「なので、今日は結婚式を挙げる式場を選びに行きましょうか」 信之助が佐久良の言葉を聞いて、某アニメに出てくる、テーブルに肘をつき手を口の前で組むあのポーズをした。そう。冷静になったのだ。 今の今まで、佐久良のやっていた仕事、猪原の話をしていたはずだ。信之助はそう理解している。それが何故、急に式場を探しに行くことになったのか。 「ちょっと待て佐久良。誰と誰の式場を探しに行くんだ」 「もちろん、俺とポチですよ」 そこで信之助は思い出した。自分が酔っている時に、佐久良にプロポーズをされたことを。ボイスレコーダーで、自分がプロポーズを受けていたのを確認した。 今までそれを忘れていた。 「でもさ、今行くの!!!」 「はい。俺は、あなたとする結婚式の式場を探すために仕事を頑張ったんです」 「猪原が心配じゃなくてか!?」 「猪原さんを想って頑張ったのが10%で、あとの90%はポチとの結婚のために頑張ったんです」 「マジでか!?」 「マジです」 佐久良の顔は、嘘を言っているような感じではなかった。だから信之助は、ここまでして自分と結婚したかったのかと正直頭を抱えたくなった。そして、今すぐ断るべきだと。 しかし、断ろうとする信之助に気づいたのか佐久良がボイスレコーダーを取り出した。 「俺のプロポーズ、ポチは受けてくれましたよね。それに、もう周りの皆には言ったって言いましたよね」 ニコリと笑っているのに、佐久良の目が怖くて。信之助は、ブンブンと首を縦に振っていた。

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