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その63お鼻にキスをしてあげましょう
ステンドグラスの美しさに目を奪われている信之助の手を引いて、佐久良は並べられている椅子に座る。信之助も、引っ張られるがまま椅子に座った。
「信之助さん」
佐久良が信之助の名前を呼んだ。いつもはポチと言うくせに、真剣な話をする時はちゃんと名前で呼んでくれる。これだから、信之助は佐久良を突き放せないのだ。ふざける時はふざけるけれど、でも一途で何事にも真剣で。
周りから見れば、きっと信之助の行動は矛盾ばかりだと思うだろう。嫌われたくないと言いながら、いざ近づかれると離れていく。臆病者だからこそ、佐久良の一途さがたまに怖くなる時がある。
「何、」
「本気で結婚受けてもらえないですか?」
「…………………」
「真面目なんです。本気で俺は、あなたと一生を共にしたい」
佐久良が、信之助の手をギュッと握った。信之助も、躊躇いながらだが佐久良の手を握り返した。
「――――――もうちょっとだけ、考えさせて」
「………はい」
「俺ね、今までけっこういい加減に生きてきたけど。どういうわけか、お前にはいい加減な答えを出したくないの」
「そうですか」
「そ。一途なお前だから、ちゃんと考えて答えを出したい」
信之助が、佐久良の肩に頭を預けるような形で寄りかかる。佐久良は黙ってそれを受け入れる。
しばらく、2人は何も話さないで寄り添いあった。どれぐらいそうしていたか、信之助には正確な時間は分からなかった。もちろん、佐久良にも。でも、ステンドグラスから入ってくる光が微かにオレンジ色になっているのを確認すると、佐久良は立ち上がった。もちろん、信之助も立ち上がる。
「そろそろ帰りましょうか」
「そうだな」
「………ポチ」
「ん?」
「今日は、カレーが食べたいです」
佐久良が急に何を言い出すかと思えば、今日の晩ごはんのリクエストだった。急すぎて、信之助は笑いをこらえることが出来なかった。
お腹を抱えて笑う。ケラケラと笑う信之助の姿を見て、佐久良が口を尖らせた。
「…………笑うポチにはお仕置きです」
佐久良はそう言うと、信之助の頬を両手で押さえて鼻にキスをした。そしてキスをしたあと、ベロリと信之助の鼻を舐める。
「う、ひゃい!!」
「本当、可愛い反応しますねポチ」
ニヤリと笑う佐久良の顔に、信之助は猫パンチならぬ犬パンチをお見舞いした。
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