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その66守ってもらうのも大事です

ジリジリと近づいてくる津葉樹。津葉樹から、佐久良は信之助を庇うようにして抱き締める。変態っぽく津葉樹の息が荒くなったところで、周りのジトリとする視線に気づいたらしい。スッとインテリっぽい感じに戻った。 「まぁ、紹介はおいおいしてもらうとして。家に帰ってこい、佐久良。組長も、亜架祢(あかね)兄さんもお前が秋島組を捨てて戻ってくるのを待っている」 津葉樹の言葉に、佐久良の纏う空気が変わったのを信之助は察知した。冷たく他人を寄せ付けないような、そんな雰囲気を醸し出す佐久良。 何だか知らない佐久良になってしまいそうで、引き留めるように抱きついた。 「………………戻るわけないでしょう」 「ふん。そんなちっぽけな組の組長に居座って、お前の利益になるのか?下らない」 「……………下らないってなんだよ」 信之助が、フルフルと身体を震わせて声を放った。どんな表情をしているかは、顔を俯けているせいで分からない。しかし、声色からして怒っているのは確かだった。 「佐久良の兄さんだか何だか知らないけど、こいつが大切に守ってるもんを下らないって決めつけるなよ」 言い終わると同時に、信之助は顔を上げた。ギロリと津葉樹を睨みながら、佐久良の腕の中から離れる。そして今度は、信之助が庇うようにして佐久良の前に立った。 「………部外者の、可愛いおじさんは黙っていてください」 「可愛いは認めない。部外者は認めるけど。でも、あんたよりは佐久良のことを分かってるつもりだけど」 信之助は、くるりと振り向くと、佐久良に笑顔を見せた。まるで、安心してろと言うように。佐久良の涙腺が、ゆるりと緩むのが感じ取れた。 「こいつは、俺のことポチって言うし。他の組員には口悪い時とかあるけど。でも、大切に思ってるのは十分に理解できる。俺らは、佐久良の背中に守られてるって。だからさ、そんな佐久良をバカにされるのはほんとムカつく」 信之助は津葉樹に向かってそう言うと、佐久良の手を引いて歩きだした。

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