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その70伝えましょう

「ポチ?話って何なんですか?」 キョトンとしている佐久良は、今から信之助が話す内容のことなど、全く予想が出来ないのだろう。それもそのはずだと、佐久良の表情を見ながら信之助は思った。何せ自分は、今から佐久良も思っていなかったであろうことを伝えるのだから。 今日、信之助は佐久良に話すことを誠太郎に伝えていた。黙って信之助の話を聞いていた誠太郎は、笑って受け入れた。 『佐久良や信之助くんを想うならば、受け入れるべきではないんだろうけれど。信之助くんの人生だからね。俺は受け入れるだけだよ』 そう言って抱き締めてくれた誠太郎のぬくもりを思い出しながら、信之助は大きく息を吸い込んだ。不安がないと言ったら嘘になる。きっと佐久良のことだ。受け入れてくれない。 でも、信之助も譲る気はない。 「佐久良。俺ね、お前に頼みがある」 「俺にですか?ポチの頼みだったら、何でも応えますよ」 「―――――――だったら、俺を秋島組にいれてくれ」 「は?すいません、ちょっとポチの言っていることが、」 「仲間にしろっていってんだ。俺も秋島組に入りたい」 信之助の言葉を聞いた佐久良の瞳が徐々に開かれる。そして、言葉の意味を理解したのだろう。佐久良は鬼の形相になって、信之助の肩を掴んで揺さぶった。 「信之助さん、あんた、何言ってるんですか!?秋島組に入りたいとか、仲間になりたいとか、そんな簡単にいうなっ!」 「言っちゃ悪いのかよ」 「悪いに決まってるでしょ!ヤクザなんて、そんないいもんじゃないんです!!俺はあんたに、そんな汚れた世界にいてほしくないんですよ!!!」 そう叫びながら、佐久良は泣いていた。言われる言葉を信之助は何となく想像はしていたが、泣かれるとは思っていなかった。それほど、佐久良は信之助を大切にしている。 信之助には、汚い世界にいてほしくない。秋島組の屋敷に住まわせている時点で矛盾しているような気がするが、それとこれとは話が別なのだ。 こっちの世界に来てほしくない。信之助は、表の世界で生きていてほしい。もしも、自分が信之助と離れなければならなくなった時、全うに生きていてほしいから。 「わかってる」 「ならっ!!」 「でも俺、“部外者”になりたくないんだ。守られるだけじゃなくて、守りたいんだよ。隣にいたい。お前と同じ景色を見ていたい。お前が汚れるなら、俺も汚れる。お前が傷つくなら、俺も傷つく。そんな関係になりたいんだよ」 「っ、」 「なぁ、さくら」 信之助は、声を押し殺して泣く佐久良を抱き締めた。 もう決めたのだ。佐久良がどうしようと、自分は秋島組に入ると。 これから先ずっと、佐久良のそばにいると信之助は決めたのだ。

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