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プロローグ2

(俺は死んだはずだったのに、何がいったいどうして、こんなことになったんだ――)  目の前にある下弦の月を見つめながら、今日一日あった出来事を反芻してみる(詳しくは【歪んだ関係】(ゲイバーアンビシャスへの再来前日譚)にて掲載)  上司の牧野の命令で支店に赴き、出来損ないのチーム全員のクビを命じた。後味の悪さを払拭したかったのと、はるくんの現在の動向が知りたくて、元恋人が経営するゲイバーアンビシャスに会社を出た足でそのまま顔を出した。  美味い酒を飲みながら、昔のやり取りをする感じで適度に盛り上がり、知りたかった情報も手に入れて、意気揚々と店をあとにしたんだ。 『こんなところで何をしているんですか、高橋さん』  自宅に帰ろうと駅に向かっている途中に、いきなり呼び止められた。振り返ろうとした矢先に、後ろから抱きつかれ、腰の辺りを刺されてしまった。鋭い痛みをきっかけに、ふとアイデアが閃いた。  すべては、暗い未来から脱出するためだった。  本社が隠していた事実を懇切丁寧に伝えた結果、社員の手によってめった刺しの刑に処されたというのに、気がついたら夜空で輝く星たちと一緒にいる、ミラクルが起こった。 「死んだら地獄に落ちると思っていたのに、どうして空中に浮いてるんだか……」  首を動かしながら辺りを見回して独り言を呟けるが、躰は一切動かせない。金縛りにあっているのではなく、見えないロープでがんじがらめにされた感覚があった。 「サディストの俺を縛り上げるなんて、いい趣味してやがる」 『お褒めにあずかり光栄と言っておこうか、ふふっ』  男女の区別がつきにくい声が、どこからともなく聞こえてきた。後ろからした感じはなかったので、首を動かせるだけ動かして、その存在を探してみた。  高橋が必死になって探す様子を嘲笑う存在は、馬鹿にしたようにくつくつ笑い声を出した。 「くそっ。隠れてないで出てきたらどうだ?」 『何を言い出すかと思ったら。お前の目の前に、さっきからいるだろう』 「目の前にって、月しかない……」  いつもは下から見上げる月が、自分の目の前にある。それは少しだけ大きく見えるだけで、いつもと大差なかった。高橋の姿を見る目や話しかける口すらないというのに、いったいどうなっているのか――。

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