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プロローグ3

「月が俺に話しかけてくるなんて、新手のナンパなのか? それとも月の姿を借りた、神や仏だったりして?」 『神や仏など、人間が勝手に作り上げた偶像。そうだな、創造主と呼んでもらおうか』 「創造主! 随分と大層なご身分で」  せせら笑う高橋に合わせるように、創造主も声を立てて笑った。男女の区別がつかないその声はとても異質で、すぐさま笑うのをやめたら、同じタイミングで笑うのをやめる。 『お前をここに連れてきたのは、他でもない。ただの暇つぶしだ』 「暇つぶし……」 『生かすも殺すも、私の手の中にあった。握りつぶせばそれで終いだ。お前たち人間だって、自分より弱いものに手をかけるだろう? あれと同じこと』 「それじゃあ俺は、死んでいないのか」  創造主からもたらされた事実に、高橋は驚きを隠せなかった。  数は数えられなかったが、果物ナイフでかなり刺された記憶がある。それなのに死んでいないということは、偶然あの場にいた医者の処置が良かったのかもしれない。 『医者が施したことで、お前は助かったわけじゃない。私がお前を救ったんだ』  高橋の思考を読んだ創造主は、どこか面白くなさそうな感じで語った。  暇つぶしで救ったくせにと考えかけたが、慌てて思考を止める。これ以上創造主の機嫌を損ねたら殺されてしまうと咄嗟に思い、月に向かって微笑みかけた。 「俺を救ってくださり、ありがとうございます」 『嘘くさい笑みを浮かべて感謝されても、全然ありがたみがない。それに、お前は死にたがっていたはず。なぜ礼を言ったんだ?』 (確かにあのときは死にたいと思って、刺されるように自分から仕向けた。それなのに、俺は生きたかったのか?)  創造主に指摘された笑みを消し去り、顎に手を当てて考える。 『これで二度目だな』  考えをめぐらす高橋に、創造主が柔らかい声色で話しかけてきた。 「二度目とは?」 『お前が何かを失い、それが自分にとってどれだけ大切なのかを痛感した数だ』 「あっ――」  思い出したくない過去を引きずり出されたせいで、心中の苦悶がありありと表情に現れる。

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