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プロローグ5

「私のやっていることを早急に理解し、己を差し出すその姿に敬服してやる」 「喜んで自分を差し出したつもりは、毛頭ありません」 「聡いお前を使ってやろうと思っていたのに、その態度はいただけないじゃないか」  創造主の口調でなぜだか牧野を思い出し、高橋の表情がますます気難しいものになった。 「頭の中に浮かんだ男のことが、そんなに憎いのか?」 「憎いですよ。それこそ、死んでしまえばいいのにと思うくらいに。俺をここに連れてくる力があるのなら、アイツを殺すなんて造作のないことなんでしょうね」  思考を読まれたのをきっかけに、創造主が牧野を殺してくれないだろうかと、さりげなく自分の希望を伝えてみた。 「ふふっ。残念ながら、あの男は殺さない」  弾んだ声で告げたのは、自分を苛立たせるためなのか――あるいはお楽しみはあとに取っておくという意味で笑ったのか、高橋は理解に苦しんだ。 「後者だ。お前をこれ以上、虐めるつもりはない」 「アイツがお楽しみって、どこら辺が楽しいんですか?」 「牧野という男が、悪事に手を染めれば染めるほどに、彼奴の持つ魂がどんどん穢れたものになるであろう。そうなれば私の仕事は、自動的に減ることになるのだよ。死んだときに地獄に向かって、真っ逆さまに落ちていくのだから」 (それって、適度に悪いことをしていた俺は中途半端なタイミングで死にかけたから、ここに連れてこられたっていうのか?) 「お前も生き長らえていたら、同じく地獄に落ちていたであろうな。彼奴の悪事に加担している罪は、大きいものになる」 「ここに連れて来られて良かったです。それで、俺は何をすればいいのでしょうか?」  憎らしい牧野の話題で盛り上がるのが嫌だったので、さっさと話をぶった切ってやった。

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