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プロローグ6

「夢の番人になって、善人が見ている悪夢を消し去るのがお前の仕事だ」 「夢の番人?」  聞き慣れない言葉に、高橋は唖然とした。 「覚えはないか? 悪夢を見ている最中に、ハッと目覚めることがあるだろう?」 「あります。危ないところで、目が覚めてしまう感じというか」 「お前がまだ善人だった頃に、夢の番人がその夢を断ち切って助けたから、目が覚めたんだ」  告げられた言葉を理解するのに、暫しの時間を有した。夢の番人は、善人の悪夢を消し去るのが仕事――悪夢を消し去ることで善人を助けるとは、どういうことなのだろうか? 一般的には悪夢を見ることによって、日頃の脳の疲れをとると言われてるのに。 「人の体の作りはそうなのかもしれないが、悪夢を見ることによって魂が穢れ、善人でいられなくなる。それを防ぐのに夢の番人を使わせて、悪夢をなきものにしているのだ」  思考を読んで補足した創造主に、高橋は首を傾げた。 「善人が多いと、創造主様の仕事が増えるのでは?」 「何を言い出すかと思えば……。今頃私に『様』をつけて持ち上げても、お前の立場は良くならんぞ」  高橋の質問を無視するなり、ふたたび笑い出す。 「分かりましたよ、その夢の番人とやらになってやります!」 「素直で宜しい。ではお前が望む姿形にしてやろうか。背が高く、顔立ちは――ふむ、この男に似た者にしてみるか」  救世主が独り言を呟くなり、目の前にある月から眩いばかりの光を浴びせられた。目をぎゅっと閉じて、何とかそれをやり過ごす。目を閉じても浴びせられる明るさが分かるくらい、鬱陶しい眩しさだった。 「顔は、お前の頭の中に焼きついている男に似せてやった。着せた服は、他の夢の番人と同じものだ。乱暴に扱うなよ」

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