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プロローグ8

「悪夢の大きさや内容が酷くても、徳の大きさは一定だ。量を多くこなすのが、もっとも早く戻るコツで――」 (――おいおいそれって、どこぞのブラック企業の仕事と同じ質じゃないか) 「悪夢の中で自分の身を守れなかったら、そこで終了だ。お前の魂そのものが消失する。それに伴い、残された肉体も死亡してしまう仕組みになっている」 「そうですか……」 「あとは、夢喰いバクに気をつけること。ヤツらの食い物は夢そのもので、夢と一緒に食べられたら一巻の終わり。近づいてくるときは、地響きのような大きな足音を立てる。よく注意するように」  創造主の言葉を聞いているうちにうんざりしてきたせいで、手に持っていた鞭を力なく手放すと、自動的に縄に戻って腰に巻きついた。  こんなに万能な道具を使っても、死に直結するかもしれない現実が信じられなかった。 「俺は夢の番人として、命がけの仕事をしなければならないんですね」 「そうだ、命をなげうった罪の深さを思い知るがいい。世の中には、生きたくても生きられない人間がごまんといる。苦労して仕事に携わるように」  創造主から告げられた、逃げ出したくなる仕事の内容を聞いていたら、聞き覚えのある声が頭の中に再生される。 『物分かりのいい君が傍にいてくれることを考えると、本社で随分と仕事がしやすくなるだろう。期待しているよ』  すべてはあのとき――牧野に目をつけられ、汚れ仕事に従事させられる身の上が心底嫌になって、結果的に死に急いだ。もしあの男に刺されなかったら、今頃どうなっていただろう。 「お前の中に、牧野という男に抗う気力はあったか?」  高橋の心の内を読んだ創造主が、疑問点を投げかけてきた。 「気力どころか途中で精力も削がれて、ただの操り人形になっていた俺は、遅かれ早かれ死んでいたでしょうね」 「ならば、牧野に復讐するために生き返るという理由で、夢の番人の仕事に励めばいいだろう?」 「復讐ですか……」  牧野に頼まれた仕事の関係で、幾分かの弱みを握っているのは事実だったが、証拠になりそうなものを、そのままにしておくような男じゃないことも分かっていた。

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