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プロローグ9

 高橋が夢の番人として従事している間に、一切合切綺麗さっぱり処分しているかもしれない。 「なるほど、抜け目のない男に使われたものだな。だったら失った恋を取り戻すためにという、理由はどうだろう?」 「覆水、盆に返らずという言葉を知っていますか? 相手に嫌われて終わったものは、どんなことをしても、元に戻れないんです。挽回の余地すらない……」 「なぜわざと嫌われることをするのか、私にはさっぱり理解ができない。そういうお前も、私のことを理解できないだろう?」  顔の傍にある髪の毛がうざったくて、耳にかけてみる。 「そうですね。自らを創造主と呼ばせるくらいに万能だというのに、夢の番人にその有能な力を、分けてはくださらないんですね。なんて不平等なんでしょう」 「私に向かって悪態をつく、その顔。できるだけ美しく作ってやったはずなのに、どうして醜く見えるのか」 「せっかく作っていただいた顔ですが、自分では見えませんから、どれだけ醜いのか分かりません」  正直なことを答えたと思った矢先に、妙な声をあげて創造主が笑いだした。 「おかしなことを言いましたっけ?」 「いいや、確かに自分で自分の顔は見られまい。お前ならてっきり、自身の腹黒さを素直に吐くかと思ったのに、思惑が外れて残念だ」  残念だと口では言いいながら、なおも笑い続ける。その態度に呆れ果て、胸の前で腕を組みながらため息をついた。 「笑わせた礼として、面白いことを教えてやろう」 「笑わせたつもりは、全然なかったんですが」 「まぁそう拗ねるな。私のことを万能と言ったが、そこまで万能じゃない話だ」  意外な言葉に、そのまま耳を傾ける。 「人間は出逢う相手によって、その運命を変える。例えばお前が憎んでいる牧野という男に出逢わなければ、確実に寿命が延びていたということだ」 「そうですね……」  胸の中の痛みの原因――江藤との出逢いもなかったら、この痛みを知ることはなかった。真剣に誰かを好きになることを知らず、自分の快楽のために延々と人を騙し続けていただろう。 「人間が死ぬ直前になってはじめて、私はこうして動くことができる。だからそこに行きつくまでの未来予知ができない私は、万能じゃないということだ」  いきなり妙な浮遊感を、躰に感じた。 「わっ、な、なんだ!?」 「夢の番人として、これからたくさんの善人に出逢うお前の運命もまた、私は読むことができない。せいぜい清き心に触れて、お前の中にある腹黒さが少しは薄まることを期待している」  創造主が告げた最後のセリフを聞き取る前に、闇の中へと躰が一気に落とされていった。あまりの衝撃に声はおろか、目をつぶってやり過ごすのに必死だった。

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