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現の夢2

「ううっ……」  呻くような男の声が、ベランダから窓をすり抜けた瞬間に聞こえてきた。それに反応して視線を落とすと、向かって右の壁際に置かれたベッドの上に、若い男が横たわっているのが目に留まる。 (ぱっと見、6畳のワンルームってところか。さっきお邪魔した、女の家よりも綺麗だ――)  男の傍に近づきながら、部屋の様子を改めて見渡した。  床に衣類など細々した物が一切置かれていないことで、暗がりでも室内の綺麗な感じが分かった。黒を基調とした家具で統一感を出しているところも、高橋なりに好感が持てた。 「ご、めんなさ……、も、しませんっ」  しげしげと辺りを観察している間も、苦しげな男のうわ言が続く。あまりにつらそうな感じを確かめるべく、腰を屈めて若い男の顔をじっと見つめた。  それなりに整った顔立ち――少しだけ癖の入った前髪が額に滲む汗に張りつき、長い睫毛が痙攣するように、時折揺らめいた。薄い唇が吐き出す呼吸は乱れっぱなしで、色っぽく見える。 「可哀そうにな、今すぐに助けてやる」  額に張りついた前髪を梳いてやろうと手を差し出したが、夢の番人としての自分では、すり抜けてしまうことに気がつき、落胆しながら引っ込めた。  触れられないことが分かっていたが、何もせずにはいられなくて、若い男の唇にキスをした。長い髪が高橋のキスを隠すように、さらさらと顔の傍を覆っていく。 「さてと、そろそろ仕事にとりかからせてもらうぞ」  屈めていた腰を上げて姿勢を正し、悪夢の中に入るために両手を合わせて、そっと目をつぶる。  それは初めて、夢の番人の仕事をしたときだった。小さな女のコの夢の中にどうやって入ろうか困った瞬間に、手を合わせて目をつぶるポーズを強制的にとらされたのがきっかけで、毎回これを行っていた。  数秒後に目を開けた高橋の前に、真っ白い部屋の中にいる男女の姿が現れた。  水商売風の派手な身なりをした女が若い男に向かって、暴言を喚き散らしているだけじゃなく、殴る蹴るの暴力を振るう行為を目の当たりにした。高橋の眉間に、自然と皺が寄った。 「情けない、哀れな姿だな……」  男女の姿を同時に罵った高橋の言葉を聞くなり、若い男がぎょっとした顔で振り返った。 「ぁ、貴方はいったい?」 「なんだお前、俺の姿が見えるのか?」  言いながら男の前に歩み出て、殴ろうとした女の腕を掴みあげた。女は高橋の姿が見えないのか、醜く顔を歪ませて抵抗するように躰を揺らす。  夢の中では物に触れることができるので、対処ができる大きさのときは、自らこうして触れて仕事をしていた。 (初めてだな、夢の中で認識されるのは。どうして俺の姿が見えるんだろう?)

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