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現の夢3

「あの、沙良さんをどうするつもりですか?」 「沙良? この女のことか。お前に害を与えていたんだから、消すに決まってるだろ」 「駄目です、沙良さんを消さないでくださいっ。悪いのは僕なんです!」  若い男は高橋の腰元に抱きつき、涙で頬を濡らした。 「どういうことだ?」  自分に暴力を振るっていた女のために泣くなんて、ただ事じゃない。そんな疑問のもと訊ねてみた。 「忙しい沙良さんの代わりに、違うコを指名しちゃったから、それで怒ってるだけなんです」 「お前、この女と付き合ってるのか?」 「いえ、それは……。彼女はキャバ嬢でして――」  決まりの悪い顔をした男に、高橋は意味深な笑みを見せた。 「なるほど。客とキャバ嬢の関係を超えていないのに、どうしてこんなに暴力を振るわれるんだ? 普段からされてるんだろ?」 「やっ、ここまで酷いものじゃないですけど」 (ドМな男が自分を痛めつけるご主人様がいなくなると焦って、涙を流していたということか。とんだ趣味だな) 「男のくせに情けない。もっと毅然とした態度をとったらどうだ」  放り出すように掴んでいた女を突き飛ばし、腰に巻きついている縄に触れて鞭に変えた。何度か鞭をしならせて、しっかりと狙いを定める。 「はっ!」  動く女の首を狙ったが、鞭の先端は頭を掠めていった。それでもはっきり見えていた女の姿が、煙になってスーッと消えていく。 「沙良さんが……」 「安心しろ、これは夢の中の出来事だ。現実世界ではちゃんと生きてる」 「貴方はいったい、何なんですか?」 「俺は――うっ!」  若い男に振り返って、夢の番人だと告げようとした矢先だった。  高橋の目の前にいる男が、グラグラ揺れはじめた。まるで荒れた船に乗っている感覚に陥り、頭を押さえながら崩れるように跪く。 (おいおい、このタイミングで活動限界になるってマジか。キャバ嬢に思いっきり暴力を振るわれてた、見るからに情けないこの男に頼らなきゃならないなんて、どう考えても最悪だ) 「大丈夫ですか?」 「おいお前、男と性行為をしたことがあるか?」 「は? そんなのあるわけないですよ」 「そうか……」 「……女性ともしたことがないです」  黙ったまま見上げる高橋の視線に恥ずかしくなったのか、若い男の頬が赤く染まっていく。

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