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理想と現実の狭間で3

「ああ、そうか。声に出して言えないんだったな」  敦士の自宅にいるイメージで話かけてしまったため、失敗したと反省しながら、年輩の男のもとから去る。  口パクで番人を呼び、人差し指でそっとパソコンの画面を示した敦士に、済まなかったと詫びた。 『番人さま、彼はこの部署でリーダーと呼ばれている人物になります』 「リーダー? 役職はないのか?」  敦士の隣から、その場にいる面々の顔を改めて窺ってみた。  はじめてみたとき同様に、やる気がない顔色で仕事をしている4人とは裏腹に、仕事をまったくしない『リーダー』と呼ばれる年輩の男の態度は、見ているだけでムカつくものとして番人の目に映った。 『役職はありません。ここは雑用係と呼ばれている部署ですので』  打ち込まれた文章を読み終え、顎に手を当てつつ座っている敦士を見下ろした。 「お前はどこかの部署で、大きな失敗でもして、ここに飛ばされてきたのか?」  番人のセリフに耳を傾けながら、パソコンの画面をじっと見つめていた敦士は、ちょっとだけ眉根を寄せてキーボードを叩く。 『大きな失敗をしたことはなかったのですが、何をやっても中途半端な仕事しかできなくて、部署のお荷物になった感じです。あとから来た新人に、営業成績が抜かされてしまう始末で。昨年ここに異動させられました』 「営業成績……。外回りの仕事か?」 『はい、そうです』 「職種が合っていなかっただけだろう。引っ込み思案なお前は、営業向きじゃないことくらい分かる」  押し黙った敦士が、デスクの左隅に置かれた青いファイルを、瞳を揺らしながら切なげに見つめた。 「おい、その青いファイルを開け」 「えっ?」  番人の命令に反応して声をあげた敦士を、他のメンバーが何事だという様子で視線を送ってきた。

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