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理想と現実の狭間で10

 現実では感じることのできない、番人のぬくもり。そして自分を魅惑する香りを、心ゆくまで堪能する。  頑張ったご褒美なのか、抱きしめた敦士の腕を振り解くことなく、されるがままでいてくれた優しい番人の姿は、まるで気高く美しい天使のように見えた。 「番人さま……」 「どうした?」 「僕の精は、まだ必要ないですよね。この間、差し上げたばかりですし」  俯かせた顔をそのままに、たどたどしく話しかける敦士の様子を見て、番人は小首を傾げた。 「確かに余裕はある」 「そのことは、分かっているのですが……。番人さまを抱きたいって言ったら、抱くことは可能でしょうか?」  喋りながら戦慄く躰を隠すように、番人を抱きしめる二の腕に力が入った。 「それは――」 「こんな崖の上で、何を言ってるんだって話ですよね」 「敦士……」 「ここは夢の中だけど、夢じゃないっていう感覚がある中で、番人さまを抱くことができる、唯一無二の場所ですよね。だからこそ番人さまを抱きたいです」  告げながら顔を上げる敦士の眼差しに、番人は息を飲む。あからさまに困惑していることが分かったが、自分の想いを止めることはどうしてもできなかった。 「番人さまが欲しいです。貴方のすべてが欲しい……、お願いします。お願ぃ」  好きという想いを込めて告げた、切なげな声を合図にしたように、崖下から吹き上げていた風がピタリと止む。すると辺り一面、濃い霧が漂いはじめ、番人たちの姿を隠すように包み込んだ。

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