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理想と現実の狭間で13

*** (あのとき、番人様にがっつきすぎたのかもしれない――)  そんな考えが頭に流れるわけは、あれから一か月も経つというのに、番人が自分の前に、いっさい姿を現さなくなったからだった。  好きという気持ちが、どうしても抑えきれなくなり、それをぶるけるように番人を抱いてしまった。その想いの重さに耐えられなくなって、逃げ出してしまった可能性がある。  落ち込む理由は、他にもあった。  番人が生きるためのエネルギー源となる『精』を、他の誰かに貰いながら仕事をこなしているのを考えただけで、気が狂いそうになった。  しかしそんな考えも、仕事の忙しさに身を任せれば、一時的に何とかすることができた。  あのあと社内コンペに提出した企画が、準優勝を与えられた成果により、雑用係と呼ばれている部署から異動。現在は経営企画部で、社内が推し進めるプロジェクトを任されるようになった。  以前の自分なら、中途半端にしかこなせなかった仕事も、番人に叱られたことやアドバイスを受けた内容を思い出したら、投げ出すことなく最後まで精一杯やりきろうという、気力や情熱に変えられた。 (番人さまに逢いたい、声が聞きたい。そう思えば思うほどに夢の中でさえも、ついには出てこなくなってしまった……)  悪夢はおろか、番人の姿をまったく見られなくなったことは、神様が敦士の記憶から番人についての記憶をなくそうとしている気がしてならなかった。 「忘れるわけがない。こんなに、恋焦がれているというのに」  誰もいなくなったオフィスでひとり、残業しながら想いをこぼしてみる。  朝まで抱いてしまったあの日、テーブルに突っ伏したまま眠っていた。疲労感を抱えながら起き上がり、ごしごし目を擦ったら、隣に大きな塊があるのが分かった。  温かみを感じることはなかったけれど、寄り添うように横たわっている姿を目の当たりにして、胸の全部がじんとした。  そのまま寝てしまった自分を温めるように、傍にいてくれた番人のことが、もっともっと好きになってしまった。

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