38 / 87

理想と現実の狭間で14

(こんなにも番人さまのことを想っているのに、胸の痛みしか感じられないなんて――)  集中力を欠いた状態では、仕事に支障をきたすと考え、デスク周りを片付けたのちに、肩を落としたまま退社した。途中、コンビニに寄って晩ごはんを調達する。ビニール袋を揺らしながら、自宅マンションに向かった。  ため息をつきながら、なんの気なしに夜空を見上げると、青白く光り輝くものが目に留まった。  それは見覚えのあるプラチナブロンド色の柔らかい髪と一緒に、ストールを風になびかせて空中を浮遊する、ずっとお逢いしたかった人物に間違いなかった。 「番人さま!?」  向かっている方角は、敦士の自宅マンションのようだった。  慌てて駆け出しながら、番人の姿を目で追いかける。やがて大きな建物の中へと、吸い込まれるように消えてしまった。  涙目を擦って急いで階段を駆け上がり、高鳴る胸をどうにか抑えつつ、自宅のカギを開けた。  扉を開けて電気をつけないまま、自宅にあがり込んだ先には、リビングの中央に立ちつくす、ひょろっとした番人の姿があった。 「ばっ番人、さま?」  敦士の問いかけがたどたどしくなってしまった理由は、以前見たときと番人の放つオーラの色が違っていたから。  眩いばかりの神々しさを感じたはずなのに、目の前にいる番人からは、それがほんの僅かにしか感じられなかった。 「何度か来たことはあったんだが、なかなかお前に逢えずにいた。しかもここ最近は、随分と夜も遅くに帰っていたみたいだな」 「はい。番人さまに見てもらった企画が準優勝をいただけたお蔭で、部署が変わったんです」  番人から視線を逸らさず、手に持っていたビニール袋を足元に静かに置く。 「そうか、それは良かったな。お前の内に秘めた実力が認められて、なによりだ」 「はい……」 (こんなふうに番人さまに褒められたら、以前の僕ならもっと喜んでいたはず。それなのに今は、嬉しさ以上に虚しく思ってしまうなんて――) 「随分と、疲れた顔をしているな」  番人の背後にある窓から、ほんのりとした月明かりが入り込んでいた。その明かりを頼りに、顔色を指摘したことが分かった。

ともだちにシェアしよう!