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理想と現実の狭間で15

「きっと部署が変わって仕事内容も一気に、責任のあるものになったせいだと思います」  確かに慣れない仕事による疲れのせいで、それが顔に表れてしまうのは、容易に想像ついた。それよりも一番の原因について、自分の口から語るには、それなりの心の準備が必要だった。 「責任か……。自分がしたかった仕事ができるようになって、やりがいを感じられるだろう?」  言いながら番人の口角が上がると、肩にかかっていた髪がさらりと動いた。それが月明かりに反射し、とても綺麗なものとして目に映る。  前と変わらず、惹きつけられるような美しさをもっている番人を見ているというのに、ドキドキする胸の高鳴りみたいなものが、いっさい感じられなかった。 「番人さま、僕の仕事よりも貴方のことを教えてくだ……さい」 「俺の仕事?」  感情を押し殺した敦士の言葉を聞き、口元に湛えられていた番人の柔らかい笑みが、すっと消える。 「番人さまの仕事は、悪夢を消し去ることですけど、その……。活動するのに僕は悪夢を見られなかったから、番人さまに『精』をお渡しできませんでした」 「なんだ、そんなことか」  妙に乾いた番人の声が、敦士の鼓膜に張りついた。 「そんなことって僕にとっては、すごく気になっていたことなんです。精を差しあげることができなければ、番人さまが困ってしまうだろうって」 「お前から続けて供給できないことは、最初から分かっていた。俺がくたばるタイミングで、悪夢を見るなんていう芸当が、普通の人間にできるわけがないからな」 (サイショカラ、ワカッテイタ――!?) 「嘘……、そんな、の、最初から分かっていたな、ら、僕に関わってほ、しくなか…った」  目の前で躰を震わせる敦士を見て、番人は目を見開きながら、激しく首を横に振った。 「敦士、よく聞くんだ。俺のこの躰は創造主が作り出した、人形のようなものなんだ。お前以外のヤツに抱かれても、それは夢の番人として生きるために、仕方なく」 「仕方なく、他の人に抱かれたとしてもっ! 僕はどうしても嫌なんです。たとえ人形でもいろんな人とヤって、番人さまは感じながら喘いでそして……」 「心を許したのは、お前だけだ!!」  番人が両腕を伸ばして敦士に抱きついたが、それは絡むことなく、簡単にすり抜けてしまった。

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