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光5

***  以前の部署にいた頃は、単調な仕事ばかりで、早く終わればいいと思っていたくらいに、一日が長く感じた。  そして現在――慣れないながらも、新しい部署の仕事をなんとかこなしているうちに、日々は過ぎていった。気がついたら一日が終わっていることがあるくらい、あっという間に過ぎ去る時間の感覚に、敦士は虚しさをひしひしと感じた。  変化したのは時間の流れだけじゃなく、時折聞こえていた男性の声も、日を追うごとに数は減っていき、現在は聞くことができなくなった。  それと同時に頭の中で見えていた、青白い色の淡い光も消えた。  もう二度と、感じることができない――。  そう思うと淋しくて、代わりになるものを探そうとした。思いきってゲイバーに行き、自分に優しくしてくれる年上の男性を見つけ出そうと、サイトで探してしまう始末。  それくらい追い詰められてる状況ゆえに、メンタルはすこぶる悪いというのに、反比例して仕事は順風満帆だった。 「はあ~、疲れたなぁ……」  かなり久しぶりに定時で出社し、会社の前で伸びをしながら、敦士は思わずぼやいてしまった。  ここ最近は一層責任が重い仕事に手をつけている関係で、気を抜くとポカをやらかしてしまう敦士にとって社内にいる間は、緊張の連続だった。  だからこそ、そこから解放されると何もする気になれず、自宅マンションへと一直線で帰宅する。仕事が終わってから、キャバクラ通いをしていた頃が懐かしく思えた。 (前は挫けそうになったときや疲れがピークのときに、例の男の人の声が励ましてくれたから、どんな仕事でも乗りきることができたけど、今は自分の中にある何かを削って頑張っているせいで、毎度毎度燃え尽きた気分になる)  はあという盛大なため息と共に、歩き出した瞬間だった。 「久しぶりに逢えたというのに、情けない顔をしているじゃないか敦士」  背後から聞こえてきた、聞き覚えのない男性の低い声が、敦士の進んでいた足を止めた。  声はまったく知らないものなれど、その口調は頭の中に流れていたものに、よく似ている気がした。

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