48 / 87

光7

 夢の番人や神の瑕疵なんていう、聞き慣れない言葉の連続に、敦士の頭の中にクエスチョンマークがたくさん出てきた。 「お前の中には俺の記憶がないのに、こうして抱きしめられたという事実だけで、胸がいっぱいになるなんてな」  男性は小さく笑って、瞳を細めながら敦士をじっと見つめる。その視線を受けただけで、躰の隅々までなぜか熱くなった。 「あの……、僕は貴方とその――」  自分の躰の反応にひどく戸惑い、その理由を知りたくて、窺うように敦士は訊ねた。 「俺は現代で死にかけて、創造主に救われた。そして夢の番人という悪夢を無きものにする仕事に、無理やり就かされたんだ」 「はあ……」 「仕事をしていく上で、夢の番人のエネルギーになるのは、人間の精が必要になる」 「それって、つまり――」 「俺は夢の中で、お前に抱かれてる」 (いつまで経っても女の人が抱けないからって、諦めて男の人を抱くなんて、僕はなんて馬鹿なことをしてしまったんだ!) 「お前がショックを受けるのは、無理もないと思う。だがこれは俺を助けるために、お前が進んでしてくれたことなんだ」  男性の済まなそうな表情で、敦士の慌てふためいた心が少しだけ落ち着いた。 「僕が貴方を抱かなかったら、危なかったということでしょうか」 「ああ。夢の番人になって、はじめて精を必要とした瞬間だった。それと同時に、不思議なことが起こったんだ」 「不思議なこと?」 「他の奴らは俺の姿が見えないのに、お前だけが俺を認識してくれた。夢の中だけじゃなく、現実の世界でも。だから嬉しかった、俺は一人じゃないって思うことができた」  はじめて逢ったばかりの男性の笑顔に、敦士はいいようのないときめきを感じていた。口元を歪める独特な笑みは、はじめて見たものなのに、そうじゃない気がする。 「僕は貴方を抱いて、たくさん言葉を交わして、そして……」 「俺を好きになってくれた。今の見た目とは違う俺じゃなく、中身が好きだとお前は言った。俺としては好きになられる要素は、見た目以外ないと思っていたのに。仕事のことで結構手厳しい指導をしたりして、悪夢を見せたくらいなのにな」 (仕事のことで手厳しい指導――それは社内コンペに提出した企画のことじゃ……。だから彼のお蔭で、準優勝がもらえたのか)

ともだちにシェアしよう!