50 / 87
光9
「どうして貴方は、そこまで自分をさらけ出すことができるんですか?」
身を乗り出して訊ねた敦士の視線から逃れるように、男性は瞼を伏せた。
「お前には嘘がつけない。俺が弱りきって死にかけた格好悪いところや、他にもいろんなものを見せてる。敦士自身も偽りのない姿を、俺に見せてくれているから」
「僕も?」
敦士が疑問を投げかけたのを機に、男性は伏せていた瞼を上げて、見据えるように凝視した。
「ああ。想いを真っ直ぐぶつけてくれた。すごく嬉しかった。こんな俺でも、愛してくれるんだって」
男性から注がれる眼差しは、告げられたセリフを表すかのように、熱を帯びていた。
「僕は貴方を……好き――」
男性の耳に、敦士の小さな呟きが届いたのかは分からない。それでも目の前で艶やかに微笑む雰囲気から、間違いなく自分に好意を抱いていることが分かった。
(どうして僕は、こんなにも尻込みしてしまうんだろう? この人が好きなら好きで、飛び込んでいけばいいだけなのに、どうしてもそれができない……)
「俺が夢の番人として、お前と最後に逢ったとき。残念なゴタゴタがあった」
男性の微笑みが、泣き出しそうな笑みに早変わりした。敦士は胸元を押さえながら、話の続きに聞き入る。
「夢は夢でも、悪夢の中じゃないと逢うことができない俺たちは、ずっとすれ違ったままでいた」
「それじゃあ貴方は、夢の番人としてのエネルギーを、僕から得ることができていないんじゃ」
「そうだ。だから仕方なく、他の奴から徴収するしか手がなかった。とはいえ俺の姿は相手に見えない状態で、無理やり搾取するという形だったけどな」
悪夢を見られなかったせいで、男性が他の人と関係を持ってしまった――相手には認識できない行為とはいえ、その事実を考えただけで胸が潰れそうなくらいの、何とも言えない痛みを感じた。
いろんなわけがあっても敦士にとって、それは耐え難いものだった。
「やはり、あのときと同じ状況になるか。当然だよな」
暗く沈んでいく敦士の表情に、男性は途方に暮れた顔つきになる。
「貴方は、何でそのこと……。どうして、隠してくれなかったんですか。こんなにつらいこと、僕は知りたくなかった!」
ともだちにシェアしよう!