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光12
猜疑心を含んだ、高橋からの視線を受けているのに、敦士は柔らかく微笑んでみせた。
「実際に付き合ってみないと、何もはじまりませんよ?」
「……本当に俺でいいのか? ついさっき信用できないって、自分から言ったじゃないか」
「信用できないそんな貴方だからこそ、僕がしっかり見張っていなきゃ駄目な気がするんです」
敦士は勇気を振り絞り、困惑して固まったままでいる高橋に顔を寄せて、そのまま唇を重ねる。
決意を表すような口づけを受けてもなお、高橋はさらに狼狽えて、敦士の頬に手を添えるなり、唇を外した。
「バカッ! 働いてる会社が近くにあるのに、いきなり何をするんだ。こんなこと、往来でするものじゃない」
「でも……」
「それにもう、この腕を離してくれ。逃げたりしないから」
高橋の躰に回されていた両腕を渋々外すと、逃げないと言ったのに、数歩だけ後退りする。
「高橋さん!」
「済まない。変な感じが否めなくてな」
「変な感じ?」
「夢の中では、背の高い俺がお前を抱きしめていた。今はそれが逆なのが、変な感じがして」
日が徐々に傾く中で辺りが薄暗くなっていたが、高橋の頬が赤く染まっているのを、敦士は認識した。
「嫌なんですか?」
自分よりも年上でしっかりしていそうな高橋が、頬を染めて俯く可愛い姿を目の当たりにして、ふたたびキスしたい気持ちになる。
それと同時に、見たことのない高橋のいろんな顔を見てみたいと、敦士は強く思った。
「こんなことになるなんて、夢にも思ってなかった」
「こんなこと?」
「ここに来たのは、実は3度めなんだ。2度めはマンションまで行ったんだが……。振られることが分かっていたせいで、お前に逢わずに帰ってた」
「じゃあこれで、3度目の正直なんですね」
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