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番外編:貴方に逢えたから11
マグカップを持っていない健吾さんの片手を、ぎゅっと握りしめた。
僕の行動がきっかけになったのか、健吾さんは伏せていたまぶたをゆっくり上げてから、恐るおそる隣を見る。不安を映すまなざしをビシバシ受けたけど、自分なりに微笑みかけた。大丈夫なことを示すために愛情を込めて、満面の笑みを浮かべる。
笑いかけた僕を見て、健吾さんはマグカップを床に置くと、握りしめた手の上に、あたたかな手を重ねる。ふたりそろって、重なり合う手をじっと見つめた。
(今朝やってしまった険悪なやり取りが、嘘みたいに思えるからこそ、正直に伝えられる!)
「健吾さんの過去のおこないのせいで、地獄へ行くことが決まっているのなら、迷うことなく僕もあとを追います。どんなところにだって、ついて行く覚悟はできてます!」
自分よりも一回り小さい、華奢な手の温もりをひしひしと感じながら、素直な気持ちを告げた。
「敦士……」
「やってしまったことは、消すことができませんが、昔の健吾さんは過去のものですよ。まぁ僕としては、大好きな貴方に騙されるのは、本望ですけどね」
言い終える前に、健吾さんは一瞬だけ歪んだ表情を見せたけど、目を閉じて何かをやり過ごしたのか、すぐにいつもの顔に戻った。
「敦士、お前の優しさは俺にとって、希望の光そのものだ。夢の番人だったときも、そのお蔭で助けられた。今だって……」
いつもの声とはちょっとだけ違う、慈愛に満ち溢れた健吾さんの低い声色を聞いてるだけで、胸がじんとした。
持っていたマグカップをそっと床に置いて、躰を反転させるなり、かばっとしがみついた。
「おっと! どうした?」
「嬉しくて……。ただただ嬉しくて」
鼻の奥がツンとして、泣き出しそうになる。それを我慢するために、下唇を強く噛みしめた。
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