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番外編:貴方に逢えたから13
「希望の光であるお前に、ご褒美を考えたんだが、受け取ってくれるか?」
「ご褒美?」
健吾さんは抱きしめていた腕の力を抜き、僕を解放するなり立ち上がる。
「その前に敦士からもらったご褒美を、きちんと飲み干さなければいけないな。せっかく手間暇かけてコーヒーを作ってもらったのに、すぐに飲めなくて悪かった」
言いながら腰を屈めてマグカップを手にし、ぐびぐび飲んでくれた。
「なぁ敦士……」
「はい?」
「また美味しいコーヒーを淹れてくれるか?」
「もちろんです!」
即答した僕を見て、健吾さんは顔をほころばせた。
(――好きな人にこうして強請られて、断れる恋人がいるなら見てみたいくらいだ)
嬉しさのあまりに、心の中でガッツポーズを作った僕を眺めながら、頭をくちゃくちゃと撫でる。
「お礼を含んだご褒美を用意するために、ちょっとだけ時間がかかるから、ベッドに入って待っていてくれ」
ひとしきり僕の頭を撫でてから、踵を返してキッチンに向かう背中を、どこかふわふわした気分で見送る。『ベッドで待っていてくれ』と言われた時点で、ご褒美がアッチ系なことが明白すぎて、ドキドキが止まらない。
卑猥なご褒美をもらえることに興奮したせいで、頬の熱を感じている間に、健吾さんはキッチンからそそくさと移動して浴室へと消えた。ほどなくして、シャワーを浴びる水音が聞こえてくる。
このあとの情事を考えるだけで、どうにも落ち着かなくて、床に置いたマグカップの中身を、一気飲みした。
時間が経って冷めていたこともあり、酸味がかなり感じられたけど、美味い不味いなんていう、まともな判断ができるわけもなく――。
「僕はいつも健吾さんから、与えられてばかりいるな……」
今までのことを思い返しながら立ち上がり、のろのろとキッチンに向かった。
持っていたマグカップを洗いながら、自分が彼にできることを考えてみたけれど、思いつかないまま洗い物を終えて、寝室に移動することになった。
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